18 決闘
文字数少なめですが、ご了承ください。
「私が引き受けます」
自分の夢がかかった決闘に、アイラは立ち上がった。周りの冒険者が騒がしくなり、皆アイラに視線を注ぐ。
震えるアイラの背中をジルクはポンと押し出して、突き出した右手の親指を上げながら言う。
「アイラならきっと大丈夫。頑張れ」
「ボクも応援してるよ」
メルもジルクの動作を真似て親指を立てる。その二人を見てアイラは微笑んだ。
「ありがと」
冒険家ギルド内のほぼ全員が外へ出て、街の広場に向かった。大人数の一斉移動に興味を持った住人はどんどん最後尾へ並んだ。
空に浮かぶ大きな太陽はその日一番の輝きを放ち、広場に到着した人々を照らした。その光に、アイラのブロンド髪は光沢を持ったような、美しい艶を魅せる。
一筋の風でふわりと舞い上がった髪は、シャンプーのわずかに甘い香りを撒いた。
「決闘を受けてくれてありがとう。僕はカル。よろしくね」
「私はアイラです。こちらこそよろしくお願いしますね」
観客が二人を円形に囲う。
決闘は修行と違って寸止めではなく、相手を戦闘不能にするか、どちらかが降参するまで勝負は続く。
実践とも訓練とも違う、決闘の緊張感。
初めて身に浴びるそれに、ジルクは固唾を飲んだ。
カルが腰の曲刀を抜き放つ。対してアイラは何もしない。カルは腰を落として肩の力を抜いた。鋭い両目からは決闘慣れしていることを示している。
アイラは右手を持ち上げるだけで、これといって特徴的な動作をしない。ただ、大きく開かれた瞳は勝利だけを見つめ、諦めなど微塵も感じさせなかった。
「あれが魔術師ってやつなのか……?」
ジルクは独り言を吐き捨てる。
同時に周囲から音が消えた。二人の決闘に集中し始めたのだ。視線のぶつかりはまるで火花を散らしているようで、ジルクも一瞬ひるんでしまうほどだ。
開始の合図なんてなかった。完全な静寂が場を包んだ一瞬、カルが床の煉瓦を蹴り飛ばした。
「 悪いが一撃で終わりだ!」
その速さはまさしく疾風。
広場にいた人間でそれを捕らえられたのは、ジルクとメル、黒フードの男、そしてアイラだけだった。
「なめないで。ファイア!」
右手から生まれた炎がカルを正面から迎え撃つ。しかし、
「あまい!」
曲刀を一振りして炎を斬り伏せる。小さな爆発が発生して、黒い煙が上がった。気にせず、カルは刀身を内側に向けて曲刀を走らせる。
「終わりだ!」
銀色に薄く輝く刃がアイラを真っ二つに引き裂いた。
「アイ……!」
ジルクは思わず声を上げるが、刃は空振りに終わる。いや、確かにアイラは切られた。
「そっちは幻影です! 不死鳥の炎よ、我が右手に宿て、対象を灰と化せ!」
高速の詠唱を終えて、アイラは右手を地面に押し付けた。
「グランドフレイム!」
右手に纏う灼熱の炎がレンガの隙間を渡り、カルの真下から火柱となって吹き上げた。
「あ゛……あっ!」
火柱の中で喘ぐカルはとても苦しそうで、アイラは魔法を中断した。
「ふぅ。戦闘不能ということで、私の勝ち、ですかね?」
「「「うおおおお」」」
観客が沸く中、ジルクは走り去っていく黒フードの男を確かに見た。
それはジルクの親友だった、たった一人の男。不慮の事故で死亡し、ジルクが心の扉を固く閉めた原因の男。
喉元まで出かかった言葉を、しかしジルクは口に出すことができなかった。
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