表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

16 冒険家ギルドの受付嬢

またまた日にちが開いてしまってすみません。

今日からは文字数少なくなるかもですが、毎日投稿頑張りますので、応援宜しくお願いします。



 街が特徴としている赤煉瓦ではなく、古木造りの冒険家ギルド。ベテランから新人冒険者まで、数多くの人々が集まる酒場のような雰囲気の中、気持ちいいほど透き通る声が響いた。


「それでは、お預かりいたしますね」


 人を預けるのは、ジルクにとってこれが初めてだった。不慣れな行為なのにどこか違和感を感じたので苦笑いを返し、ジルクは左右の腕で引きずってきた平賊二人を冒険家ギルドの受付のお姉さんに手渡す。


「ど、どうぞ」


 すると彼女は、気絶状態から目覚めない二人を床に投げ捨てた。

 ブロンドの髪とふっくらした頬を際立たせる、可愛らしい笑顔とは裏腹に、平賊二人へと向けられた薄茶色の瞳には怒りが宿っていた。

 その迫力にメルは一歩下がる。続けてジルクも一歩下がり、速足でその場を後にしようとした時。


「ちょっと待ってください」


 彼女は巨大な胸を揺らしながら、ジルクの肩を右手で鷲掴みにした。

 

「見たところ、お二人とも実力はあるようですが、冒険者ではありませんね?」


 二人のことをピタリと言い当てた彼女に、ジルクは興味を持って足を止める。


「実力はまだまだですけど、冒険者になりたくてここへ来ました。…………どうして冒険者じゃないとわかったんですか?」


 彼女は少し自慢げに自分の胸に手を当て、答えた。


「それはもう、何人もの冒険者志望の方々を見て来ましたから。それに、実力が無いだなんてご謙遜を。先ほどのファントムドラゴンとの戦い見ましたよ! Sランク四位を一撃で倒せる方なんて、きっと貴方くらいしかいませんよ」


 しばらくはこの街でお金を稼ぐ予定だったジルクには、耳を疑う話だった。

 それもそのはず。もしも彼女の言っていることが全て正しいとすれば、ジルクは街を救った英雄か何かとして噂され、お金稼ぎどころではなくなってしまう。

 どうしていいかわからず、メルに助けを求めようと視線を送る。


「ほんと凄かったよ兄さん。まさかSランクモンスターを一撃で倒しちゃうなんてね。これで兄さんは街を救った英雄だよ」


「うああっ」


 呻き声をあげても、ギルド内の冒険者はジルクを一瞥しただけで、興味を示さない。

 ファントムドラゴンを倒してから十五分。まだ噂が広まっていないのだ。もし広まっていたら今頃人波に呑まれているだろう。


「あまり有名にはなりたくない、みたいな顔ですね」


「はい……今有名になるのはちょっと困ります、かな」


「そこで!」


 頭を深く下げ、彼女はその透き通るような声で言った。


「私をお二人専用の者にしてください!」


 他の人たちも会話の区切りが良かったようで、一瞬の沈黙が場を包み込む。それを破ったのはメルの一声だった。


「なっ……兄さんはボクの者だ! 君になんかあげてたまるか!」


「ボクのモノって……私そんな卑猥なことを言ったんじゃありません! 私が言ったのは、私をお二人専用の受付にしてくださいという、いたって健全なーー」


「二人ともストップ! 俺は俺であって、どっちのものでもないから!」


「(兄さん/あなた)は(ちょっと/少し)黙ってて(下さい)!」


 二人のジルクを巡る口論に、ジルクが口を挟む隙はなかった。

 ボクの方が兄さんを愛してる。私の方がこの人を尊敬してる。

 そんなことを言い合う二人を前にジルクはただ顔を赤らめることしかできなかった。


「そもそも、今日初めて兄さんに会ったくせに、私専用の者にっていうのはおかしいよ!」


「ですから私は小さい頃からSランクモンスター討伐者に与えられる『勇者』の称号を持つ方に憧れているだけで!」


 『勇者』とはなんなのか。Sランクモンスター討伐者に与えられるということは、テイスもSランクモンスターを倒したのか。

 聞きたいことは沢山あった。しかし言い合う二人の迫力は途轍もなく、ジルクにはただ待つことしかできなかった。



 五分後。ようやく互いの意見に納得した二人は、笑顔でジルクを見つめる。


「あはは」


「ふふふ」


「あの、何がどうなったのか説明いただけると助かります……」


 再び賑わい始めたギルド内の声を押しのけて、メルが「じゃあボクが」と切り出す。


「この人はアイラって言うんだけどね。アイラが兄さんに声をかけたのは、まだ彼女が幼かった頃、Sランク三位のデュラハンっていうモンスターにお父さんを殺されちゃったからなんだって。

 Sランク四位を相手に無傷どころか余裕で勝っちゃう兄さんなら、デュラハンも倒せるだろうから」


「そっか……ならアイラさん」


 アイラはジルクの唇に人差し指を当てて首を横に振る。


「アイラさんはやめて下さい。アイラで良いですよ」


 ジルクはその指を右手で外すと、笑顔を返した。


「なら俺のこともジルクで大丈夫。もちろんタメ口で話してくれて良いよ」


「仕事柄、敬語に慣れちゃってるので、少しずつ直していく、ます」


「分かった。それで話を戻すんだけど、デュラハンを倒すために俺たちを見つけて、その後はどうするの?」


「えっと、その、パーティに入れてもらえないかな、です」


 俯くアイラの顔には、元気という名の希望が一切無かった。


 ーーきっと今まで何人もの人に断られてきたんだ。俺だってメルが居なかったら今頃イナーシャを助けるための情報収集に、相当腕の立つメンバーが揃ったパーティを探していただろうし、アイラに同情はする。でもーー


「俺たちは傀儡の魔王を倒しに行く。その途中でデュラハンは全力で探すし、見つけたら倒す。それでも俺やメルにだって勝てないかもしれない。

 危険なんだ。

 メルはともかく、俺はまだ自分の力を完全に使いこなしてるわけじゃない。アイラが危険な時に守ってあげられる保証もできない」


 刹那、イナーシャを失ったあの瞬間がジルクの脳裏に過った。足を撃たれたが為に、イナーシャが無理をして、辱めを受けて。何もできない自分はただ痛みと恐怖に怯えていただけで、「逃げて」と言ったイナーシャの言葉すら守らずに、無様に死んだ自分の姿が。

 苦虫を噛み潰したかのような顔をしたジルクに、アイラが満面の笑みで目尻に涙を浮かべながら呟いた。


「私を、心配してくれるんですか……?」


「当たり前だ。もし二人に何かあったら、最悪俺の命なんてーー」


 が、遮ってメルがわずかな怒りと共に言う。


「その先は言ったら怒るよ、兄さん」


「ごめんな、メル。でも俺はもう、目の前で人を失いたくない」


「それはボクだって同じだよ。兄さんやアイラが危なかったら絶対助ける」


 自分も同じだと言わんばかりに、アイラが二人を抱きしめた。力強く、優しく、暖かく。

 三人は自然と涙を流して、それに気づいた冒険者たちは会話を止め、静かに見守った。


「私はデュラハンを倒す為に仕事の合間で自分を鍛え続けた、です。だから自分の身はしっかり守れる、ですよ」


 ジルクは頷いてアイラの胸から顔を離す。鼻に付くアイラの甘い香りは、ジルクにとって心地いいものだった。


 そんな中、場の空気を全く読むことのできない一人の男がギルドのドアを思い切り開いた。古木の軋む音が全員の耳を打ち付ける。


「誰か僕と決闘したい人はいないか!!」


 四角いメガネを指先でくいっと上げながら叫んだ男に、アイラは目を光らせた。


「ジルク、メル。今から私はあいつと決闘して自分の実力を証明する。だからお願い。もし勝ったら、私をパーティに入れて」


 負けたとしても、アイラみたいにしっかりした女性を断ったりしないから。思う存分行ってこい!

 そう言いたかったが、アイラの両目に宿る闘志は美しく煌めいていて、ジルクは彼女にかける言葉が一つで十分だと判断した。


「頑張れ」


「うん。私頑張るから、お父さん」

感想ブクマ待ってます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ