15 平賊
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数メートル先すらも見えない霧の中、ジルクは隣にいるメルを見て、なんとも微妙な表情を浮かべていた。メルも首を傾げながら、「うーん」と唸っている。
「二人ゲッドォォォォ!」
上半身裸の毛深い大男は、聞き取るのが精一杯なほど低い声でそう叫んだ。そんな彼とは対極的な、小柄な男は甲高い声で言う。
「流石だぜ兄貴ィ!」
両手でハイタッチをすると、毛深い男はジルクに向けて人差し指を突き出した。
「ぞのダンゲンもらっだあぁぁぁ」
耳は良い方なんだけどな……
そんなことを脳裏に一瞬ちらつかせてからジルクとメルは再び顔を見合わせ、首をかしげる。
「「ごめん、もう一回言って」」
「お前ら! 平賊のギルドマスターである山さんに向かってタメ口とは何事だ!?」
「山さんなら山賊の方が合うよ!? 絶対」
山さんというらしき男はそれを聞くと、両手を大きく広げて盛大な笑い声を上げた。
「ガバババババっ! あんじんじなジョウジャン。おでのおどうどである海が立派にざんぞくのリーダーづどめでるがらな! ガバババババ!」
「ダメだ。なんて言ってるのか全くわからない」
ジルクに続けてメルも首を横に振る。
そんなことをしている間に霧は段々と薄くなって、遠くにぼんやりと街の住民が見えてきた。自ら腰に戻ったアイギスにも日光が当たり始めた。
「ええいもういい! さっさとやっちまいましょうぜ兄貴!」
「ぞうだなぁぁぁぁ」
「ならこっちもそろそろ」
「高音を聴いてたからなのかな……なんだか耳が痛いよ。というわけで兄さん。ボクは左の人をやるね」
メルの頭を撫でようと右手を持ち上げた瞬間魔吸手錠の鎖は、ピーンと音を立てて弾け飛んだ。
ジルクに抱きつこうとしたメルも、両手を広げようとしただけで手錠が千切れた。それを見て顔を驚愕の色に染め上げたのは平賊の二人。
「お前らの力はエンチャントじゃあなかったのか!?」
「エンチャントって確か、魔法で一時的にステータスを強化するやつか。残念だけど、俺はそんなもの使ってないぜ」
「ボクも使ってないよ!」
右手を上げながら付け足すメルの頭を荒く撫でて、ジルクは腰を落とした。
「あんな化け物だったなんて聞いてないっすよ兄貴!」
「おでもぎいでねぇ…………」
「聞いてないって、お前リーダーじゃないのかよ」
山さんを指差しながら問うが、両手を小刻みに震わせるだけで返事はない。呆れたメルが長くため息を吐き出し、呟く。
「怖くなって適当なこと言ってるだけだと思うよ。もし背後に誰かいるとしても、ボク達なら問題ないよ!」
「そう、だよな」
ーーそうだと信じたいけど、この胸騒ぎは……
「ひ、ひいいい!」
「逃げるがガヂィィィ」
涙を撒きながら逃げる二人に、メルは手刀をお見舞いした。声を上げることもなく地面に倒れ、ゴキっと変な音が上がる。
「あっ」
「多分、気のせいだよな……」
「あの音は気のせいじゃないよ兄さん。昨日に引き続きごめん……」
「え? あ、ああ。まぁ、あれだ。気にするな」
ジルクはメルのところまで一躍すると、地面に顔を埋め込む二人を仰向けにして、
「ヒール」
と唱える。
「兄さん、この二人どうするの?」
「うーん、とりあえず冒険家ギルドまで連れて行って、正義感強そうな人に引き渡すか」
「ほんと優しいなぁ兄さん。ボクだったらここに置いていくのに」
「妹よ、それだけはやめてあげて」
苦笑いでそう告げたジルクの両目を日光が刺した。霧は完全に晴れて、ファントムドラゴンを倒した二人をようやく目視できるようになった住民は、歓喜の声を上げ始める。
その中にただ一人だけ、ジルクは見覚えのある人物を捉えた。しかしジルクが声を上げるのよりも一歩早く、両肩に黒い鳥を乗せたやつは一人歓喜を上げることなく街中へ消えて行った。
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