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11 災厄3


 家の残骸を覆う炎が揺らめき、熱に耐えられなくなった木が、バチッと音を上げた。

 ゴブリンの出現は収まり、メルもイナーシャに槍を向けている。

 ジルクとイナーシャが互いの刀を相手に向けて、地面を蹴った。


「はあああっ!」


「やああっ!」


 気合を声として迸らせて、ジルクは上段から放たれた刀を盾で受け止める。

 重い。それ以外の何も感じられない二頭の刃をひたすら受け止めて、土の中に倒れこむ。

 光速で飛ぶ槍は倒れるジルクを超えて、イナーシャに突き刺さろうとする。

 左の刀を真横に一閃して槍を弾く。宙に舞った槍は瞬時に態勢を立て直すと、背後に回り込み、蛇のように細かく左右へ軌道を変えながらイナーシャの左腕を掠める。

 小さく飛んだ鮮血が盾となったアイギスを汚す。


「……っ、ごめん!」


 相手がいくら邪神とはいえ、体はイナーシャのものだ。それを傷つけることはジルクには耐え難いことで、しかしやらなければならないことでもある。

 短く口にした言葉は一瞬だけイナーシャを止めた。


「私に逆らおうとするなっ!」


 そう言い放つとイナーシャは大きく間合いを取る。背中にクロスする二頭の刀を一息に抜刀。

 刹那、ジルクは異様な寒気を感じてイナーシャとの間合いを詰めるべく、走り出した。


「リオンの名の下に命ずる。私を愛し、私を守り、私のためだけにその命を使え。傀儡の人形として戦うことを誓い、敵を薙ぎ払え!」


 二刀は仮初めの意識をもらい、その全てをイナーシャに捧げた。彼女を守るため、彼女の敵となる者を全て殺す。それができるのは自分たちだけなのだ。その感覚に飲まれた刀は黒く染まり、自らの意思で飛んだ。メルを殺しに。


「メルっ!」


 必死に叫ぶジルクをイナーシャは、リオンは嘲笑った。


「あはは、助けに行きたいでしょう? だってこのままだと彼女死んでしまうものね。でもダメ。君の相手は、私だからっ!」


 世界に二つと無い武器同士がぶつかり、甲高い音を響かせる。

 高速で刀をぶつけ合う二人に、優劣の差がつき始めた。それは武器の強さでも、力の強さでもない。戦闘の勘。

 両手で数え切れないほどの神を斬り殺してきたリオンと違い、ジルクは戦闘の経験が圧倒的に足りない。防戦一方のジルクは《ヘルプレスガード》の発動条件である、自分からの攻撃を何一つとして繰り出すことができない。

 リオンはわざと鍔迫り合いへと移行して、ジルクに囁きかける。


「姉さんの《ヘルプレスガード》はもっとつよいはずなんだけどなー。まあいっか、今回も駄作だったってことで」


「お前、リオンって言うんだなっ。言っておくが、お前の姉さん、そんなに、強くなかったぞっ」


「あははは、君面白いことを言うね。人間相手に姉さんが本気になるわけないでしょ? 私だってまだ半分も本気になってないんだけどね」


「ふんっ、言ってろ!」


 そう言い放ち、ジルクはアイギスに意識を注いだ。

 鍔迫り合いは押されている方が防御、押している方が攻撃だと一体誰が決めたのか。それはあくまで本人の捉え方であって、その捉え方さえ変えればどちらにもなる。

 そう考えてジルクはアイギスに、これは攻撃であると心の中で言い聞かせた。

 ギリギリと嫌な音を立てて押し込まれるアイギスの《パーフェクトガード》は、威力を殺しさえするが、重さや衝撃、振動までは防げない。

 しかしこれは攻撃であって防いでるわけではないのだ。


「リオン、この攻撃だけは絶対に当てる!」


 肺にたまった全ての空気と引き換えにそう叫ぶと、アイギスは深紅の刀身をすり抜けた。

 紫紺の盾で受け流し、純銀の刀でリオンの右肩を鎧ごと貫く。


「ああ゛っ」


 悲痛な喘ぎ声に目が熱くなる。たまった水滴を瞬きで振り払うと、アイギスに命ずる。


「檻!」


 肩に突き刺さるアイギスは、リオンの真上から檻となって落ちる。が……


「なめないで!」


 メルを殺しに行ったはずの二刀が愛する人を守るべく、リオンの元に帰る。彼女を閉じ込めようとする檻を空中で受け止めて僅かな時間をつくり、砕け散った。

 その間に跳躍して檻の範囲内から出ると、ジルクを見つめて言う。


「私の間違いだったみたい。君なら姉さんも、私も満足させてくれそう。もしこの子を助けたいなら、魔王の城に来て。私はそこにいるから」


 そう言いながら自分の胸をポンポンと叩く。


「待て! イナーシャをーー」


 言い終える前に、リオンは光の粒となって弾けた。


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