色違
刀を懐から抜いた。古びた刃毀れの酷い刀だ。偽神牛鬼の妖気が刀の中へ吸い込まれていく。
「妖刀、闇荒御魂。この刀に見覚えはないか……」
「知らん」
栄助は否定したが、実松にはしっかりと分かった。どこか暴神立に似ている。柄の模様が色違いであり、鍔が左右対称の形をしている。刀身の真っ青な色がそっくりだ。髑髏の武者が腰を低く構えて足を肩幅に開く。分かりやすい程の臨戦態勢。と、注意を失っている間に鶯小町を見失う。
あの小さな少女は絵之木実松の真後ろにいた。薄気味悪い笑顔を浮かべて。次の瞬間にまた人々の悲鳴が聞こえてくる。偽神牛鬼の能力、五感の共有だ。目の前に血飛沫が飛び散る映像が目に浮かぶ。幻覚ですらないただのマヤカシだ。現実性など微塵もない。だが、理屈で分かっていても心がついていかない。
吐き気が止まらないのだ。残虐に殺されていく人間を目にする度に涙が出てくる。そんな絵之木実松を鶯小町が優しく抱く。まるで慰めるかのように、子供をあやすかのように。
鶯小町の首を撥ねる為に滋賀栄助が暴神立の首を目掛けて居合切りを放つ。しかし、そんな彼女の攻撃を偽神牛鬼が斬撃を叩き込むことで防いだ。目にも留まらぬ早業。白髪が風に靡く。
「ほーら、生きるも死ぬも変わらないでしょう」
鶯小町が肌を撫でる。次に心が狂うのを感じた。訳の分からない感触を感じる。
「何で苦しむの? 何も悲しいことなんて無い。心から現実を受け止めて、受け入れて、受け取ればいい。この苦しみは……あなたにとって絶望でもなければ痛みでもない」
痛みを受け入れろ。心など捨ててしまえ。折れる心が無ければ苦しまない。痛くとも苦しくとも笑ってしまえ。愛おしい我が子のような気持ちで、傷を舐めればいい。この傷はお前を成長させる。
「私は……」
人心掌握。鶯小町はあらゆる人間の痛覚を奪う。それは一度は多くの人間を救った。病人の痛みを取り払い、そのまま殺した。怪我をした人間の痛みを取り払い、そのまま殺した。痛みを感じない人間は、短命にも全て死に絶えた。自分が死の瀬戸際にいることすら気が付けない。
コイツの物語はとても分かりやすい。自分自身が何も手を下さずに人を殺し続けた妖魔。
「五感を共有する能力と、痛みを取り消す能力……」
なるほど、確かに、この2人が同時行動しているのは合理的だ。よく相補性が合い極まっている。痛みを消す能力によって感覚を失い、偽神牛鬼の五感を共有することで全てが偽神牛鬼と何もかも同じ感覚をより味わう。
「痛いねえ、痛いねぇ。可哀想に」
「お前みたいな屑が、そんな言葉を使うな!」




