縄張
「そうだ、私には君と同年代の娘がいる。明るい子なんだ。友達が出来れば」
「出来れば……なんだよ……」
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滋賀栄助と絵之木実松は行動を開始していた。もうじき夜になる。悪霊や妖怪であれば、その妖力が増す時間帯。これが百鬼にも適応するかは分からないが。店の多くは営業をしていない。いつもの賑わっている光景は消えかかっていた。しかし、こんな時にも店を開けてお客を取る場所もある。
狙われているのは裕福な家の人間だけだ。自分たちには関係ない。栄助と実松は町の中心にいた。無暗に動いても効率が悪い。奴らが動くのを待って、悲鳴が聞こえた場所へ飛び込む作戦だ。人数がいればこんな杜撰な作戦を取る必要はないのだが。
「栄助さん……」
「直接、我々を狙ってくれるか。それとも誰か客を誘拐するのか、動かないのか」
緊迫した汗が流れる。互いに背中を合わせながらずっと音が聞こえるのを待つ。ホーホケキョ、鶯の他の鳥に対する縄張り宣言が聞こえるまで。相手はそこまで戦闘力が高くない。能力主体の非力な百鬼だ。滋賀栄助と一対一で睨む合う構図になれば勝ったも同然である。
対敵するだけで勝負がつく。そんな甘い考えがあった。
「おい。霧が濃くなってきたな」
「はい。しかも、これは霧じゃない。毒ではないようですが、狂気を内蔵している」
既に攻撃をされていた。頭が馬鹿になりそうである。暴れ出したい衝動に駆られるというか、今にも走り出したくなるような。栄助は何事もないようである。
「栄助さん。僕の腕を少し切ってください」
「あぁ」
人間相手にはあまり切れ味を発揮しない暴神立だが、腕に傷をつけることは出来る。実松は痛みによって自我を保とうとした。痛がる実松を見て栄助が苦しそうな顔をする。
「どう思う?」
「これは鶯小町の能力じゃない。霧を発生させるなんて百物語には無かった。むしろその設定があるのは……百鬼将:偽神牛鬼」
この吉原での一戦。敵の総数を考え直した方がいいかもしれない。最初に事務所で三匹の百鬼が襲ってきた。誰かが、百鬼将の指示に従う、なんてことを言っていた気がする。つまり、こいつ等は百鬼の中でも組織を作っている。単独で行動せずに仲間内で集まって拠点を築いている。そう考えるのが妥当。そして、その組織の頂点が偽神牛鬼。
「そんな……敵は鶯小町だけだと思っていたのに」
「分かりやすくていいじゃねーか」
百鬼将は今までの敵とは各が違う。今の栄助で勝てる相手か分からない。
「栄助さん。人払いは済ませています。一部、言うことに従ってくれない人たちもいましたが」
「まあ、派手に暴れれば怖くて逃げだすだろ。大放電をお見舞いするぜ!」




