小鳥
相手は悪霊じゃない。未来から送り込まれた人工的に作られた妖怪。
「でも、人間をベースに作られてますよね」
「あぁ。さっき戦った忍者は、ただ仕事をしに来たカメラマンだ。この件なんて何も知らないただの部外者。100人という人数合わせだった」
「じゃあ妖怪と戦っているというよりも、人間と戦っているという表現なのでは」
「それも違うな。正確には死体と戦っているだろ」
そうだ。すでに未来で死んでいるのだから。
病院に通院していた患者、政治家関連の人間、志願者も少なからずいたらしい。人数合わせで無関係ながら殺された人間もいる。
「作者本人は?」
「知らねーよ。仲間内に作家がいたからソイツかもな」
薬袋纐纈が百鬼の中に含まれているのかも怪しい。学者、俳優、作家、政治家、弁護士。こいつ等が『百鬼将』を演じているとしか思えない。物語の世界の住人になった。自ら悪霊になった連中。
「なんで江戸時代に転生したのかは分からないが、お爺様の言う通りならあいつ等の狙いは『進化』だ。奴らは悪霊を進化させようとしている。次のステップに。その為の儀式だろう」
「そうですね。陰陽師の端くれと致しましては、そんな事は絶対に阻止しなければいけないのですが」
考察を続けても仕方がない。今は明確にやるべき事がある。鶯小町を食い止めねばならない。奴は他人の命を簡単に奪える。洗脳系の能力だろう。非常に厄介だ。
「栄助さん。とにかく戦いましょう。そうすれば分かることも多いはずです」
「ああ。それにしても……」
栄助は一呼吸置いてゆっくりと言った。
「お前、よく私の言っている事を理解できるよな。この時代には無い言葉を使っているのに」
「え?」
★
もうすぐ病気は治る。そしたら一緒に遊びに行こう。鶯小町はそんな言葉を思い出していた。人間に近しい姿の百鬼になると、前世の記憶を持つ者も多い。鶯小町は自身の過去を知っていた。彼女は薬袋纐纈が経営する病院の患者だった。死を待つのみの可憐な少女。
「誰? あっ、先生」
「お久しぶりだね。定期健診に来たよ」
「ねぇ、私はいつ死ねるの? いつまで待てばいいの?」
「君を死なせはしないよ。現代医療で救える範囲にいるんだ。きっと君は助かる。希望を捨てちゃ駄目だよ」
「私は希望を捨ててはいないわ。死ぬことに希望を持っているだけよ。早く死にたい。病気が治って完治して社会に出ていくなんて嫌だ。このまま病人のままも嫌だ。早くこの世界から消えてしまいたい」
「そんなことを言っては駄目だよ」
彼女は助からない。助かろうとも思っていない。
「生まれ変わったら鳥になりたい。小鳥がいいわ。自由に大空を飛び回って、大声で叫んで。自分の子供に餌をやって。あんな姿になりたい」




