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語部

 「まあ、あとは私は殺されてしまった。雪山に埋められて」


 「あぁ……」


 「で、気が付いたらこの時代に飛ばされていたってこと。滋賀栄助の人格として」


 「えぇ……」


 「たぶん百鬼の計画は、あの六人が計画したことだと思うけど。それ以上は私自身も分からないことが多くてさ。なにせ蚊帳の外でしたから。私は悪霊を呼び込むだけの女の子でした」


 「まあ、陰陽師の私からしたら恐怖なんですけどね」


 「特殊体質ってやつ? 私自身は死ななかったけど、周りの連中は劇的な死を遂げたりしていたからな。短編ホラードラマの語り部役だよ」


 「……言葉が出ません」


 「金持ちになりたい訳でも、誰かの不幸が見たかった訳でもないけど、幸せになりたかったなぁ」


 「これから薬袋的みないいくわさんって呼んだ方がいいですか?」


 「なんでだよ。今まで通り栄助でいいよ。もう薬袋的なんて人間はこの時代にはいないのだから。そもそもここが、私の住んできた世界の過去かどうかも怪しいんだぞ。例えばこの時代で私の家系の人間を皆殺しにすれば、祖父も生まれてこないんだから」


 「そんなこと出来ませんよ」


 「まあ、四の五の言っても始まらない。今はあの鶯野郎を倒すことに集中しようぜ」


 「はい……」


 どうして元気なのだろう。自分の祖父に殺されたようなものだ。そして訳も分からず過去に飛ばされて。どうして平常心が保てるのか。どうして落ち込まないのか。逆の立場なら耐えられる気がしない。あまりに救いがない。絶望的だ。


 「でも、また女の子に転生できて良かったな。性別が違ったらそれは面倒だろう」


 「はぁ……」


 「母親に憧れているんだよね。自分と同じような娘が欲しいというか」


 「え、えええ、ええ、ええええ!」


 「なぁ、子供欲しくない?」


 「まあ、欲しいですけど。い、今は仕事中ですから。そういうのはまた……」


 「律儀な奴だなぁ。まあ俺はいつでもいいけど」


 まだ解決していない謎が多すぎる。なぜ薬袋的と百鬼達は死後に江戸時代に転生したのか、暴神立は誰がどのような経緯で授けたのか、百物語の作者は誰なのか。


 「すいません。分かる範囲でいいので、もう一つ質問いいですか?」


 「どーぞー」


 「百鬼も一緒に転生してきたんですよね。いや、百鬼強召陣で向こうの時代から送り込んでいるとか」

 

 「あぁ、分からん。ただハッキリしているのは、明確に百鬼と悪霊は違う。似ているけど、違う。人間と妖怪が違うように、百鬼と悪霊は違う。人工的に作られた妖怪とでも言うのかな」


 まあ未来の世界で有り触れた知識になった外国の神獣なども悪霊のモチーフにしてしまっている。なるほど、悪霊と戦っている訳ではないのか。

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