子燕
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鶯小町と偽神牛鬼は以前の小部屋にいた。周りに落ちていた死体は、全て偽神牛鬼が平らげてしまった。畳の上や部屋の壁、部屋の彼方此方に血飛沫の跡がある。
「何でかえってきた。奴らの死体はどうした……」
「いえ、いや、だって……」
「そうか。殺せなかったか……」
狼面の忍者『紅爪』は逃げ出していた。奴はあの場にいたのだが、一度しか戦闘には参加していない。忍者はまず、身を隠すもの。忍者の戦闘など漫画の世界だ。正面から目と目を合わせて戦うなど、あり得ない。残りの二匹は言わずもがな狂っていた。
そして、二匹が紙のように叩き切られた。自分もあの二人のように殺される。勝てないことを悟ったくノ一は、もう逃げ出す以外に方法が無かった。あのまま戦っても勝ち目はない。いや、あの傍らにいた男を拉致すれば……。だが、それも出来なかった。得体の知れない何かを感じた。
あの男……何かを……。
そう考えている内に、右腕を掴まれ空中に持ち上げられる。次の瞬間に偽神牛鬼によって頭から踊り食いされてしまった。あまりに抑揚のない、あっさりとした殺害された。
「ふう」
「手強いでんなぁ。あの二人組。どっちも我々以上の化け物やさかいに」
「あの男……なんであんな場所に……」
鶯小町はゆるりと立ち上がった。余り過ぎている袖を口に添えた。
「ではそろそろ私も行きましょうか。もう一人の男は殺せずとも、引き剥がすまでは出来るでしょうし。おや、ボチボチ……」
相変わらず口調が独特のイントネーションである。
「お前が操っていた連中か。途中で術を変更したようだが……」
小刻みに震えるように笑う。前髪が長く目線が見えない。楽しそうにその場でクルクル回りだした。
「術を変更などしておりませんよ。むしろ術の精神汚染の進行を拡大させたんですわ。時間が経てばいずれ狂っていたでしょう。母鳥を呼ぶ子燕のように」
「幼児退行か」
精神のみが子供に戻る。享楽に溺れ、使命感を失い、恩情に甘え、自立心を失う。そして、赤子のように泣き叫ぶ。母親が傍にいないことに。得体の知れない不安感に襲われたから。耐えられる精神力が欠如してしまった。
「私が現れれば奴らは助かるのですが、放っておくと発狂死します。母鳥なしでは小鳥は生きていけませんから。もうそろそろ死ぬのでは」
「残虐だな。お前には叶わないよ」
偽神牛鬼は胡坐で座り込んだ。その骸骨のような面の間から不気味は紅い光が灯る。妖気が部屋中に充満する。黒い煙のような妖気。髑髏武者の持つ直刀にその妖力が吸収されていく。万全の準備を整える。それでも足りない。
「お前だけ行かせても仕方がないだろう。拙者も出陣する」




