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写真

 何と言った? 『滋賀栄助』と言ったようには聞こえなかった。


 「は?」


 聞き間違いに違いない。今は戦闘中だ、気に病む余裕はない。きっと陰陽師たちの鳴き声で音をよく拾えていないだけだ。それよりも、狼面の紅爪、こっちを探さなくては。


 「降りしきる雪を被り、涙までも凍結し、指先の神経は狂い、それでも痛みを抱きかかえる」


 「よく覚えているじゃねーか。あの時の関係者か?」


 「知らない。僕も又聞きだからね」


 カメラを握りしめる。悲しそうに下を向いて、項垂れる。


 「こんな化け物になっちゃった」


 「……元人間かよ」


 「人間だよ。有名人でも大金持ちでも無かったけど、楽しく生きていたよ。お前のせいで僕は殺された。どっかの誰かの本の登場人物にされてさ。忍者じゃねーよ、写真家だったのに」


 会話の意味が分からない。微かに聞き取れる声に耳を傾けているのだが、耳に言葉が入って来ても、脳内で理解することが出来ない。


 「お前の目的は何だ………。そんな話をするなんて」


 「はぁ? 僕が百鬼将の言いなりになって戦いに来たとでも? それとも君に復讐するつもり、とか思っている? 無理だよ、僕は君には勝てない」


 潔い態度ではない。目が気色悪く不気味に光り、怨念を孕んだ顔をする。


 「お前に恨みを言いに来ただけさ。僕はお前たちの写真を撮りにきただけだったのに。よくも巻き添えで殺してくれたな。それもこんな江戸時代に飛ばしてくれて。何を食べても美味しくない。もう人間だけが美味しく感じる……」


 駄目だ……本当に何を言っているのか分からない。まるで……悪霊のようだ。一般的な悪霊。怨念の塊。ただ純粋に誰かを『恨めしい』と思う感情。百鬼の生態は分かっていない部分が多い。人を殺し、滋賀栄助しか倒せず、百体存在しており、統率者がおり、外国の神話になぞらえた怪物が多い。ただこんなものは特性であって、本質ではない。


 どうやって生まれ、どうやって育ち、何を思って戦うのか。


 「覚えているか、この顔を」


 「申し訳ないが、覚えていない。集合写真を撮った記憶はあるんだが、そのカメラマンの顔なんか覚えていない」


 「この火傷はぁ?」


 「分かる。お前がその傷を負った瞬間は知らないが、原因の火災は分かる」


 「僕は人数合わせだ! 物語を百体にするために! 生贄として差し出された。ただの人数合わせ。その場にいたから、死体として転がっていたから、この世界に放り投げられた!」


 「…………」


 「お前のせいだろうがぁっ!」


 小刀を力強く握り締めて栄助へ突進する。陰陽師たちの頭の上を軽率に飛び跳ねながら。栄助は鞘にしまっていた暴神立のつかに手を添えた。次の瞬間に居合切りが炸裂し、写真家の身体が真横に真っ二つになる。


 もう動かなかった。その身体は砂のように消えていく。


 「笑えよ。実験は成功する。お前は誰よりも呪われているんだから……」


 最後にそんな言葉を残して奴はこの世界から消えていった。

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