煙玉
死体に貪りついていた一つ目の忍者もどきの動きが止まった。狼面の忍者は全く姿を現さない。逃げ出したようにも思える。一つ目の仮面の忍者も仮面を脱ぎ去った。火傷の跡がある少年のような姿。死体を口にしていた為に、顎や服が血だらけである。
「気を付けてください。奴は光を扱います」
「うーん。そうなのか」
奴は懐から小さな機械を取り出した。黒色の機械で、真ん中に大きな目がついている。油断した瞬間にその機械から目隠し用の光が投射された。腕で光から目を隠してしまう。古典的な技を使う。煙玉ではないが、作戦が忍者らしい。
「ふっふっふ。いい写真が撮れた」
訳の分からない単語を言う。しゃしん? 何と言った? コイツ。奴は嬉しそうな顔をしている。心から満足しているような顔を。
栄助すぐさま立ち上がって走り込む。刀を目線の高さまで上げて穿つ姿勢を取る。わざわざ構えたまま突進するので、首を狙っている事が一目瞭然なのである。火傷顔の忍者は大きく後ろへ飛び、代わりに何かを手裏剣のように投げつける。
栄助はその紙を刀で受け止めた。ひらひらと地面に落ちる。不用意にも、栄助はそれを拾ってしまった。そこには、険しい顔をしている滋賀栄助と絵之木実松が並んで写っていた。数秒前の二人の映像がそこに写っているのである。
「なんだこれ……」
「いい写真でしょ。ベストショットを狙ったんだよ」
視界に写った記憶を紙に写す能力か。攻撃性のある能力には感じないが、忍者としては良い能力なのかもしれない。記録を残す、諜報活動こそ忍者の最も主力の仕事だ。戦うことが本懐ではなく、情報を守り盗むことが忍者の使命である。
文章よりも、身振り手振りよりも、音声よりも、映像として残るのが一番信用性がある。場面を映像として残せるなら、忍者としては優秀かもしれない。しかし、今この瞬間は役に立たない。
「奇怪な能力を使いやがる」
「大事にしてよ。二人の思い出なんだから」
その場にいる陰陽師が邪魔になって、動きが上手くとれない。太った成人男性が所狭しと座っていて、足の踏み場がないのだ。先ほど倒した白髪の忍者は皿の置いてあった机に立っていたため、まだ足場がしっかりしていたが、今度の火傷の忍者は陰陽師の頭の上に一本足で立っている。左手は先ほど紙を生成した機械を握りしめて、もう片方の手で小刀を握っている。
ここで気が付いた。様子がおかしいことに。陰陽師たちが呂律が回らなくなっている。単純に言えば気が狂い始めた。急に大泣きを始めた。赤子のように声をあげて泣く。百鬼に襲われている恐怖じゃない。完全なる洗脳が原因だ。心と思考回路を破壊している。これは対面中の百鬼の能力じゃない。
迦頻凌迦鶯小町の能力だ。
「君のお友達、僕のカメラを見てビックリしているね~。江戸時代には無かったもんね~。でも、君は一眼レフカメラくらい知っているでしょ。ねぇ? 柵野栄助さん」




