曲刀
挑発だ。此方を動揺させようとしている。奴は通常の忍者と違って、精神を無にして戦うのではなく、狂人のように踊り狂い、精神が壊れた言動をする。
忍者。鎌倉時代前より存在したとされる諜報部隊、破壊活動、諜報戦術、暗殺などをしてきた集団。陰陽師とは別にその歴史を築いてきた組織。戦国時代に多くの忍者が戦死したが、それでも江戸幕府が抱えている忍者の数は多い。忍者と陰陽師が関わることなど、滅多にないのだが。
「おい、なんで殺しやがった。こいつ等がお前たちに何をした、この野郎」
「栄助さん。人間に似ている姿をしていますが、こいつらは忍者ではなく、ただの化け物です」
曲心忍者孤月は嬉しそうに、にたぁと笑う。それはもう気色悪く。
「うわお! どこの誰とも知らない人間が殺されたことに苛立ちを覚えるんだね! ぷぷぷ、うひゃひゃひゃひゃ。楽しいですなぁ! よし、もう一匹殺してみようか、せーのぉ!」
隣に座っていた遊女の首にも曲刀を突き射そうとする。それを栄助が切り掛かることで間一髪で救う。曲刀が栄助の暴神立とかち合った。金属音が鳴る。次に残りの二匹が襲って来る、さっきと同じパターンだ、そう思い絵之木実松は辺りを見渡した。どこから襲って来る。残りの二匹は何をして……。
まず、一つ目の仮面の忍者は、先ほど殺された陰陽師の死体を、飢えた獣のように食べていた。仮面を額に乗せて、顔面を血まみれにして食べている。気色悪さを感じた。あまりの残虐さに恐怖を感じる。久しく忘れていた異常な光景。
「あっ、狼の面の女は……」
見つからない。動きが俊敏すぎて見つけることが出来ない。部屋中を高速移動しているように思える。皿や障子が割れる音が聞こえる。滋賀栄助を殺すという共通の目的で集まったとはいえ、この三匹が連携した動きが取れるわけでもない。先ほどの奇襲だって失敗した。
自分を抑えられない。襲うのではなく、暴れているだけの化け物。
「おい。お前たちってさ。何でそんな簡単に他人が殺せるんだよ」
滋賀栄助の顔が曇っていた。彼女は正義の味方ではないが、それでも目の前で他人が死ぬのを何とも思わない訳ではない。自分が死んだ過去を思い出しているのだろうか。
「はぁ? うわお! なんだその台詞。あれあれ、正義心に目覚めちゃったぁ? 似合わねぇなぁ。お前だって俺たちを殺そうとしているくせにぃ。生きるも死ぬも同じことだろうがっ」
白髪の狂乱忍者が訳の分からないことを叫んで栄助に切り掛かる。曲刀の弦の部分を前にして、肩から横向きに切り掛かった。それを暴神立を真上に振り上げることで、曲刀を空中に吹っ飛ばす。奴の手首ごと。白髪の忍者は、切られた右腕を左手で抑え、痛がる素振りを見せた。しかし……。
「お前と俺を一緒にするな。死ぬ覚悟もないくせに」
そう呟いて白髪の忍者の首を一刀両断した。




