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足袋


 油断していたわけではない。むしろ十分に警戒態勢だった。細心の注意を払っていたつもりだ。


 それでも考えが追い付かなかった。天井から一度に三体の百鬼が襲って来るとは。仮面を被った三匹の忍者。気色の悪い狼の笑い顔、巨大な一つ目の仮面、そして何も描かれていない造形なしのお面。三者三様に天井を突き破り、真上から刃を構えて落ちて来た。


 栄助はまず目の前に降りて来た白髪の造形なしの仮面の忍者を刀を抜刀して跳ね飛ばした。身軽な男はすぐさま大きく距離を取る。上手く鍔迫り合いになり、どちらにもダメージはない。宴会の為に用意されていた皿が、割れる音と共に床に落ちる。豪華な料理が地面に散乱し、陰陽師や遊女の服に飛び散る。


 残りの二匹が隙を見て栄助の懐に短剣を刺し込んだ。まさに神業、信じられないスピード。まさに人を殺す技術。そんな姿を見て絵之木実松は唖然とする。一瞬にして自分の最愛の人が殺されてしまったのだから。


 「ふん!」


 早とちり。利き腕ではない左手で狼面の忍者の短剣を受け止め、一眼のお面の忍者の刀は足で蹴飛ばし、突き刺せていなかった。栄助の動物離れした直感が窮地を救った。そして、気が付く。自分が狙われていないことに。奴らは徹底的に滋賀栄助を狙っている。


 「三対二か。面白れぇ」


 鶯小町が相手ではない。ここに集まった連中は別の百鬼だ。まさか、独立した物語を持つ百鬼がここまで結集しているとは。この情報で考えらえる選択肢は一つしかない。百鬼将、こいつ等を束ねている奴がいる。


 曲心忍者:孤月。一眼忍者:零布。狼面忍者:紅爪。


 「身軽そうな連中が集まったな。まとめて相手してやるぜ」


 陰陽師や遊女は逃げ出さない。もう放心状態かのように、明後日の方向を見ている。洗脳が解けたのか、何か記憶や感情を奪われたのか、状態は定かではないが、敵の術中に嵌っていることは間違いないだろう。


 「栄助さん。あの一つ目のお面は視覚を奪う能力を持っています。奴が放つ光線に気を付けてください」


 「へぃへぃ。また、一つ目かよ。これで三体目だぞ、あの作者はどんだけ一つ目が好きなんだよ」


 問題は残り二匹だ。紅爪はこの中で一番忍者らしい姿をしており、まさにくノ一だ。赤いラインの入った白の装束を着ている。残りは曲心忍者、こいつもなかなか厄介だ。


 白髪の造形のないお面の忍者が…………面を脱ぎ捨てた。美男子がそこにいた。しかし、次の瞬間に地団駄を踏んで、腕を振り回し、力一杯叫び出す。


 「ねねねねねぇぇぇ。何で死なないのかなぁ! 死んでほしかったのにさぁ! お前が俺を吹っ飛ばしたせいでぇ! 料理が散乱して、俺の足袋にも少し付着っ、したんだけどぉ! 馬鹿じゃねーのぉ! あっ、殺そう、殺そう。コイツを殺して、俺の足袋とアイツの足袋を交換すればいいんだぁ。え、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねねねねええ。何その顔ぉぉ。腹が立ってオカシクなりそうなのはコッチなんですけどぉ!」


 今までも声を発した百鬼はいたが、こんなに自己主張が激しい百鬼はいなかった。コイツは全くもって自分を隠す気がない。己を無にしてこそ忍者のはずなのだが。


 「あーいいこと思いついたぁ。えい」


 近くにいた陰陽師の首元に持っていた一本の曲刀を突き射す。いとも簡単に殺した。


 「うわお! ねーどんな気持ち、ねぇどんな気持ち! なんか知らない人が目の前で殺されちゃったんだけど、どんな気持ちぃぃ?」

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