豪遊
障子を勢いよく開いた先には巨大な大広間があった。宴会などで使われる長脚が縦一直線に並び、昼間から陰陽師たちが酒を浴びるように飲んで豪遊していた。不摂生が祟った武人とは思えない体形。畳に寝そべり、盃を口にくわえ、汚らしく飯を頬張る。遊女も多くいた。淫らな遊女たちが三味線を演奏し、優雅に踊り、陰陽師たちは手を叩いて喜ぶ。
「ははは。面白いなコイツら」
「本当に面白いですね。事務所の中って絶対に部外者を入れてはいけないっていう、陰陽師の鉄の掟とかあるんですけどね」
二人が廊下を駆けまわる音も聞いていたはずだ。いや、宴会をするな、とまでは言わないが、今は悪鬼が町に忍び込み荒らしまわっている。多くの行方不明者を出している重大な事件が起こっている。遊んでいる場合ではないはずだ。
「あの……江戸から来ました」
「おう? あぁ、そうなの」
ちゃんと連絡をしたはずなのだ。それなのに。振り返りもせずに、徳利を大事そうに見つめている。立ち上がりもしない。大きく欠伸をしてその場に寝そべった。
「何しに来たの?」
「いや、悪鬼が暴れているという情報を耳にしまして。事件解決への支援をするべく参ったのです。既に二桁を超える人が消えています。調査はどれ程まで進んでいるのでしょうか」
まるで伝わっていない。不貞腐れた顔をして無視しやがった。まるで我関せずといった形である。顔を向き直して遊女に酒を注いでもらう。話し合いすらする気がないらしい。
「おい、コイツら全員叩き切ってもいいか?」
「駄目です。堪えましょう。いずれ本部に内情が知れ渡れば打ち首じゃ済みません」
いや、さすがにオカシイ。いくら吉原がそういう町だったとしても、ここまでの為体を晒すか?厳格な人間だって在籍しているはずだ。そもそも吉原は欲と豪の町。それに耐えうる強靭な精神力を持つ陰陽師が配置されているはずだ。
まさか……。今回の百鬼はそういう能力なのか。
「俺の言った通りだ。時間の無駄だったな」
「いえ、むしろ大正解かもしれないです」
少し間を置いてゆっくりと息を吸い込んだ。力一杯ではない、余裕をもってゆったりと。そして、絵之木実松は言い放った。
「ホーホケキョ、ホーホケキキョ、ケキョケキョケキョ……」
鶯の鳴き声。小鳥の囀り。事件が起こる際はこの音を聞く。
「下手くそだな。似てない、似てない」
「悪かったですね! これでも恥ずかしい気持ちを抑え込んで頑張ったんですよっ!」
その声に合わせて……陰陽師たちの様子が変わり始めた。何かに怯えるように小刻みに震えだす。涙と鼻水をダラダラ流しながら小声で何かを呟く。恐怖に歪んだ顔、精神まで支配された様子。
「ここは今回の百鬼のテリトリーみたいです。もう私たちは奴の巣箱にいるのかもしれない」
「上等だぜ。さっさと顔を出しやがれ」




