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朝日


 巨蛇に連れて行かれた場所は九十九里浜だった。今の千葉県東部にある日本最大級の砂浜海岸。霊界から現界に戻ると、そこには沢山の人間がいた。霊界は一日中薄暗く人通りが全くないので、なかなか時間が分からない。何時かを知る方法が少ない。しかし、現界に戻ってみるとそれが分かりやすくなる。早朝であったらしく、いわし漁をする漁師で賑わっていた。


 「どうやらここは上総かずさのようですね。折角、長旅をして大阪まで出張したのに、江戸付近まで逆戻りですか」


 「おお、俺たちの家の近くに飛んでくれたんだな」


 ほうけている暇はない。一刻も早く名家の方々と合流し、今後の百鬼の対策を会議しなくてはならない。百鬼を取り逃がさない為だったとはいえ、分断したのは痛手だった。だが、愚痴を言っても始まらない。急いで大阪付近へ戻らなくては。その前に文を使って世界蛇の退治報告をしなくてはならない。


 「これからどうしましょうか」


 「取り合えず家に帰ろうぜ! 焦っても始まらない」


 「はぁ。まぁ、そうですね」


 一段落した所で心の中の不安感に気が付いた。水上几帳の言葉を思い出す。異世界から来た存在であり、もう既に死亡している。こんな無鉄砲な事を言われても信じることが出来ない。何も納得できない。しかし、栄助に真実を問い質すことが怖い。栄助との関係が壊れてしまうかもしれない。そう思うと、足がすくんだ。


 「うわ、海水でベタベタだな。身体を洗い流さないと。あと、連戦で疲れたから少し寝たい。それから腹ごしらえ……あんまり腹は減ってないや。お前はどうだ?」


 「私はお腹が空いていますけど……そんなのどうでも良いですよ」


 素っ気ない返事をする。不満さが顔に出てしまっていた。笑顔で夫婦の会話をしてくれた栄助に対して、自分の不安さを押し付けてしまった。絵之木実松は慌てふためいた顔をして、右手で口を塞ぐ。


 「おぉ」


 栄助の素顔は変わらなかった。一仕事終えた満足感があったのだろうか。イジケた態度を見ても、我関せずといった表情である。そして、刀を鞘に納めると波打ち際に背を向けて歩き出した。そして、少し歩いた所で振り返る。


 「ほら! 行くぞ!」


 絵之木実松は唖然とした。彼女の方が苦しいはずなのに。日夜連戦の疲れ、絶命への恐怖、周井からの疑いの目線、百鬼討伐への使命感、そんな要素を全て背負ってまだ笑っている。本当に凄い人だと思った。彼女の後姿が朝日に照って眩しく見えた。


 「ずっと一緒にいてくれるんだろう!」


 彼女がどんな人間なのか、そんなことを考えている時点で覚悟が足らなかったのかもしれない。異世界からの来訪者だろうが、既に殺されてしまった死人だろうが、それでも愛すると決めたはずだ。絶望の中で震えながらも、一緒にいようと約束したはずだ。自分が役に立たない奴だとか、彼女に知られざる秘密があるなど、そんな些末なことはどうでも良かったのだ。


 「はい! 帰りましょう!」


 そんな言葉で砂浜を蹴り出した。朝日に背を向けて。

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