上陸
これは生き物じゃない。先ほどの目玉や水蛇とも違う。機械の装甲が装備されているのではなく、全身が機械だ。元の生き物を改造したのではなく、一から全て作ったのだ。誰かによって製造されたのである。神話の生き物でも、偉大なる神でもない。ただのカラクリだ。
「なるほど。確かに蛇じゃないな、これは」
製造過程でここまで巨大な兵器が見つからなかったのか、それはどうでもいい。作者が百鬼閻魔帳に考えたことを模写しただけなのだから。作品的な矛盾は現実世界には反映されない。
「どんな設定だよ。この野郎!」
確かに今思い返せば、機械に携わった生き物の記述はあった。ずっと登場人物達に疎まれている存在だった。復讐の為に、皆殺しにする為に、巨大な機械の蛇を作成して、海に投げ入れたのか。
「機械ってのは叩けば倒せるのか」
「叩いても、切っても、倒せません。倒し方は……いや、やはり電気でしょう。この機械の抵抗に上回るくらいの電流を浴びせて、この機械を壊せばいいんです」
三回電流を浴びせるという原作の設定が曖昧になってきた。つまりはコイツを壊せるだけの電撃を与えられれば一撃で倒せるし、それが叶わないのならば、何度放っても結果は同じだ。
「海に潜るぞ!」
「え、うわぁ!」
海に叩き付けられた衝撃でようやく滋賀栄助と絵之木実松は巨蛇と分離した。水の中に放り出される。このまま水中戦になったら、勝ち目はない。二人は必死に泳いで砂浜へと逃げ出した。咳をして這いずりながら上陸する。滋賀栄助はすぐさま立ち上がって先ほどと同様に妖力を蓄え始めた。
ここは海辺だ。上昇気流が起こりやすく、雨雲の元となる水分は山ほどある。何より地上で電撃を流すより、海へ電撃を流す方が電気は流れやすい。奴は自分が戦いやすい場所を選んだつもりなのだろうが、逆効果だ。不利でも地上戦をするべきだった。巨蛇が暴れ回ることで津波が起こる。荒れ狂う蛇が大波を起こす。
奴は逃げない選択をした。こちらへ向かって全速力で突っ込んできた。だが図体が大きい分、身体を反転させることにも時間がかかる。小回りが利かない。実際に生物ではない。誰かが操縦している機械なので、生物のような機敏な動きが出来ないのだ。
ふと、世界蛇の顔を凝視した。そこにはまるで操縦席のような場所があり、小悪魔みたいな怪物が乗車していた。髪が金髪で牙と角を持つ怪物。そして、奴はこれ以上にないくらい怯えていた。目を回し、大汗をかき、身体中が震えあがっている。あれだけ図体が大きい怪物がここまで臆病者だったとは。
「滋賀栄助と戦うように誰かに強制させられたりしてな」
雨雲に稲妻が見える。準備は整った。
「招雷暴神立!!!」
振り下げた日本刀から電撃が舞い降り、大海に稲妻が舞い降りた。
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