大地
動かなければ攻撃を受けない、という利点は無くなった。しかし、奴が雷に打たれて動けなくなっている間に、隠れればもう一度姿を隠せるかもしれない。しかし、そんな気持ちににはなれなかった。落雷を直撃してもなお、奴はその眼を地面に向けている。
世界蛇の頭部は天空へと逃げていく。全員が果てしない胴体を見上げた。理屈は簡単だ。落雷の届かない天空へ逃げてしまう。奴が空中を浮遊出来るとは思わないが。頭部のみを守る意味では効果的だ。そもそも奴が方向転換をして逃げ出す可能性もある。
樹木を超え、成層圏に突入する。真っ黒な雨雲により、奴の姿が見えなくなった。
「逃げやがった!」
奴が逃げる理由が分からない。自分に自信があるのなら、戦いを続行すればいい。図体と機動力を生かせば、戦い方など山ほどあるだろう。圧倒的な優位を捨てて奴は逃げ出したのだ。
「追い払えましたね」
天賀谷絢爛の間抜けた声に全員が苛立ちを覚える。逃がしてたまるか。あんな規格外の化け物が暴れ回り、現界にまで足を運んだら、それこそ何人死者が出るか分かったものではない。ここで確実に始末しなくては。
「追い払ったんじゃない! 取り逃がしたのだ!」
遂に奴の尾が空中へ逃げていく。絵之木実松は滋賀栄助の顔を見た。あの雷撃を連発できるとは思わないが、それでも奴が逃げ切る前に、もう一撃を叩きこんで逃走を阻止してほしい。そう願ったのだが、栄助の考えはそんな生温いことではなかった。
腰に巻き付いていた実松諸共、一緒に上空へ飛び上がり逃げ去ろうとする蛇の尻尾に捕まったのだ。尻尾の最端は太さが短い。どうにか置いて行かれずに乗車することが出来た。が、この後どうするつもりなのだろうか。
「どんな超脚力だよ。あの化け物」
「ふふふ、さすがですね」
蛇が消失したことによりそんな会話をする名家の党首たち。声が聞こえたのも束の間、その蛇の進撃するスピードから何も聞こえなくなる。そして蛇が動くことにより、削れる大地の音で全てがかき消される。
「栄助さん。暴神立に電撃を生み出す力あったなんて、私知らなかったですよ」
「あれ? 言ってなかったっけ? 最初に戦った百鬼の坊さんも電撃で倒したんだぞ」
しかし、電撃は規模が大きい分、技範囲の制約が大きい。どこでも放てる技ではない。特に今のような状況では自分たちも感電死する。どこでも使える必殺技ではないということか。
「なぁ、コイツ。本当に蛇なのかな」
「それは間違いないかと。そう閻魔帳にも書いてありましたし」
「なんか、コイツ。鱗が冷たいな。それに蛇が威嚇する時の音も鳴らさないし。そもそも何でコイツは俺たちを見つけられなかったんだ?」
「目が悪いからじゃないですか? ここまで体格差がありますし」
いや、待て。本当にそうだろうか。蛇には相手の体温を感知して追跡する能力があったはず。ピット器官と言って、目が悪く夜行性の多い蛇が獲物を捕捉する際に恒温動物を察知することに役立っている。それを奴は使わなかった。
「蛇じゃ、ない?」




