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畜生

まるで山頂を見上げている気分である。独眼巨人が可愛く思えてくる程の圧倒的な巨大さ。暴神立の斬撃で奴を倒せるのだろうか。そんな悍ましい恐怖が襲った。


 「感じる……」


 賀茂久遠が呟く。目を細めて、何かを憐れむような表情で。


 「弓削家の人間の波長だ。さっきの目玉の言っていたことは本当だったようだ」


 死人の魂の波長など、常人では陰陽師でも感知不能だ。だが、賀茂久遠にはそれが出来る。既に弓削家党首の死体は奴の胃の中なのだろう。陰陽師界最強の予知能力者が殺されてしまったようだ。奴は動かない。静止している訳でもないのだが、舌なめずりをしながら辺りを伺っている。


 「どうして攻撃してこない」


 その場にいる陰陽師全員が硬直していた。奴を倒す策が全く浮かなばい。まるで倒せる算段がつかない。あの滋賀栄助ですら呆気に取られて動けなくなっている。蛇に睨まれた蛙、なんて表現だろうか。あまりの巨大さに声を失っていた。どんな悪鬼でもここまでのサイズはいない。


 「う、うわぁぁ」


 先ほどの四匹の迎撃に当たっていた陰陽師が悲鳴をあげて逃げ出した。次の瞬間に蛇が咄嗟に動き出し真上から丸呑みにする。なんの抵抗をする余裕もなかった。音に反応したのか、地面の振動に反応したのか、それとも温度を感知したのか。


 とにかく動いた者から殺される。


 (俺たちは生き餌だ。野性の畜生と同じ性質だ。動くものを捕えて食する)


 その証拠に奴は死体を口にはしない。だから死体が転がっている。動物を飼育する場合に生き餌しか食べないのはよくある話だ。猫が動くものに反応するのと同じだ。奴もその類なのだろう。そもそも奴と目から見える景色は、人間のものとは違うのだろう。その場にいた全員が自覚した。しかし、放置も出来ない。いずれは戦わなくてはならない。自分たちの背中には守るべき親方様がいるのだから。


 真っ白な鱗が月の光を反射して不気味に輝く。鮮血の舌が宙に舞う。


 全員が絶望する中で、一人だけ勝算を持つ男がいた。あの蛇の弱点を知る人間が。


 絵之木実松は倒せる方法を模索していた。まず、奴が百鬼である以上は意識を持たない怪物ではない。奴も人間何の知能を持っているならば、感情という明確な弱点がある。今の所は毛ほどもそんな様子を見せないが。もう一つ、奴の物語は退治に成功しているのである。奴の弱点は雷だ。海の中で遊泳し、陸に上がる際に海水を噴き上げて反乱させ、最後は三度の雷に打たれて死んだ。


 「雷を使える人はいますか」


 恐る恐る声を出す。絵之木実松の方を全員で向き直した。声が奴のトリガーではなかったらしい。世界蛇は襲っては来ない。まず賭けに勝った。


 「奴の弱点は雷です。そのようにして退治できます。どなたか雷獣をお持ちではないですか」


 霞むような声だった。聞こえない人もいるかもしれない。それでも真剣な声で伝えた。

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