戦場
この世界の人間ではない。その言葉に衝撃をおぼえた。水上几帳は穏やかな口調でゆっくりと付け加える。
「どちらからいらっしゃったかは分かりません。しかし、僕は貴方と出会った瞬間に、この世界の人間ではないことが分かりました。死後に蘇ったとか、化けて出たとか、そんな次元じゃない。もっと今ここの世界とは別の平行世界から現れたとしか思えないんですよ」
滋賀栄助は呆気に取られている。ここまで悩んだ顔をしているのは初めて見た。いつもは無鉄砲に走り回っている人なのに、好戦的な獣のはずなのに。
「まあ、その女が何者なのかは後で拷問でもして考えるとして、まだ奴らの奇襲が終わっていない」
賀茂久遠が口を開いた。その言葉にその場にいた全員が注視する。そうだ。滋賀栄助の事にばかり気がとられていたが、今はそんな場合じゃない。あの百鬼に寄生されていた青年が、弓削家の党首が死んだと言った。巨大な蛇に殺されたと。その事実を確かめなくてはならない。
「何か感知しましたか?」
天賀谷絢爛の声に賀茂久遠はゆっくりと首を縦に振る。
「東西南北から一匹ずつ。先ほどの目玉と似た波長の悪鬼が此方へ向かっている。北から来る一匹はあかなりの巨大な波長だ。こんな妖怪は見たことがない」
その言葉を聞いた聞き終えた瞬間に栄助は座布団を蹴っ飛ばし、即座に迎撃準備に向かおうとしていた。それを猪飼慈雲が抑える。そうだ、異世界から来た来訪者を逃がすわけにはいかない。せめて単独行動をさせる訳にはいかない。
「どうして此処に我々がいることがバレたのか、そんなことはこの際どうでもいいとして。このまま親方様を危険に晒す訳にはいきません。ここは皆で協力して、百鬼を撃退しましょう」
水上几帳が勇気づける言葉を発するが全体の空気が纏まらない。どこか不信感で淀んでいる。滋賀栄助への敵視、水上几帳への不信感、それぞれの御家の党首がどう考えているのか分からないが、一体感が感じられない。
「だが、滋賀栄助にしか百鬼は倒せないのだろう」
「えぇ。困りましたね。私、猪飼様、賀茂様、天賀谷様で一匹ずつを担当し足止めをしましょう。土御門様はこの場で親方様の護衛をするということで。滋賀栄助さんは各戦場を回って確固撃破してください」
水上几帳の言葉に異論がある人はいなかった。不信感はある。しかし、今はそんなことを言っている場合じゃない。土御門芥を除く全員が立ち上がった。絵之木実松は唾を飲む。私はどうすればいいのだろうと。焦り顔で周りを見渡していると、滋賀栄助から肩を叩かれた。
「一緒に来るだろ。どうせこいつ等、俺を監視しなければいけない、なんて考えているだろ。私の監視役はお前がしろよ」
「はい。でも、いいんですか? 私は栄助さんの夫です。信用がないのでは……」
と、思い詰めても仕方がないのである。もう皆さん、部屋から出て準備に向かっていた。まだ猪飼慈雲だけがその部屋に残っている。そんなことを言っている場合じゃない。人手が足りていないのだから。そもそも絵之木実松がどこにいても無意味なので、議論する余地がないという判断だろう。
「二人ともワシと一緒に来い。ワシがすぐに片付ける」




