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飛脚

やはり倒せない。あの土御門芥が百鬼を一撃で粉砕する威力を持っていたことには驚いたが、それでもやはり絶命させるには至らない。随分と小型の百鬼である。図体が小さい分、攻撃の的が小さい。


 「持久戦になったらこっちが不利だ。ここは逃げましょう」


 また絵之木実松が作戦的撤退を希望するが、皆から無視される。猪飼慈雲はちゃんと正確に百鬼が倒せないことを理解しているはずだが、どうして逃げることに踏み切ってくれないのだろうか。不安そうな栄助の顔を見て、水上がにっこり笑った。


 「大丈夫だよ、大丈夫。もうあの人が来てくれたからね」


 そんな声を真に受ける訳にもいかない。あの眼球、今度は親方様へ向かって突進をしている。至近距離で殺すつもりか。そう思い身構え、親方様のいる簾の前で盾となる。死を覚悟した。


 しかし、事態は呆気なく収束する。


 ドタっという音が鳴った。勢いよく障子が細切れになり、滋賀栄助が中へ飛び込んできたのだ。眼球は後方へ振り返るも、次の瞬間には真っ二つにされていた。


 ★


 「いやぁ、滋賀栄助さんがこっちに向かっていることは妖力で感知していたから」


 水上几帳が穏やかな声で言う。賀茂久遠も分かり切っていたという表情だ。


 「ワシが飛脚に手紙を渡しておいた。滋賀栄助をすぐにここへ連れて来るように」


 継飛脚とは手紙や物資を運ぶ人間のことである、情報通信の要であり、料金によって特急便や臨時便などのサービスもある。将軍、大名、商人などがよく利用する。


 「でも、栄助さん。独眼巨人は……」


 「倒したぜ!」


 彼女は白い歯を見せてニッコリと笑ってみせた。てっきり一緒に戦いに行かなかった自分を恨んでいるとばかり思っていたが、彼女の笑顔からは何とも思っていないように思えた。本来なら安堵すべき瞬間なのだろうが、今回ばかりは自分の無能さを呪うしかなかった。素直に喜べない。


 「おやおや、皆さんお揃いで。これ僕、遅刻ですかね」


 青年の死体をひょいと跨ぎながら、煌びやかな青年が入室してくる。耳飾りに派手な着物、随分と金持ちのようだ。すこし間を置いたが、すぐにこの人も名家の党首様だと分かり、床にひれ伏す。


 「天賀谷絢爛です。お待たせ致しました、親方様」


 またも返事をせず、簾の中からコクっと頷くだけ。一難去ったことに安心し、すぐに猪飼慈雲の座布団の近くへ戻る。栄助は軽はずみな足踏みで実松の近くへ胡坐をかいて座った。


 「一件落着ですね。良かった、良かった」


 そう言って優雅に扇を仰ぐ水上几帳を、滋賀栄助は目を細めて見つめる。その様子を実松は察知した。どうしたんだろう、と思い内緒話をしようと耳に近づいていくと。


 「あぁーーーー!」


 と、部屋中に響き渡るような大声を出す。親方様の前だろうが、偉い党首の前だろうが、滋賀栄助の神経の図太さは変わらない。まるで何かを思い出したかのように、驚愕の顔を浮かべた。人差し指で水上几帳の顔を指さす。


 「私に百鬼閻魔帳をくれた人!!!」

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