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堀川

 御門城が陥落したことにより、陰陽師の党首は避難をしていた。霊界にある京の町が崩壊する最中、辛くも逃げることに成功した。場所は大阪。商業が盛んであり、堀川を利用して多くの船が物品を運んでいる。その頃の大阪は「天下の台所」と言われ、米や地方の産物が運び込まれ、それが金へと変換されていた。多くの財源を蓄えた町人が生活を楽しむ気持ちが芽生え、学問と文化が栄える町である。


 「賀茂家党首様、賀茂久遠かもくおん様が到着しました。天賀谷絢爛様ももうじきいらっしゃるそうです」


 御殿ごてんに陰陽師の党首の姿があった。その城は霊界にあり、表世界にはない城である。しかし、御簾みすの中に姿を消し、その影だけが真黒く映る。分かったと言う意味なのか、首を縦に振った。それを見た使いが一礼してその場を去る。


 高価で気品溢れる面持ちなのだが、どこか煌びやかさの欠けた薄暗い城。ここが党首が避難した際の御殿なのだ。そこへとある人間が近づいていく。巨漢の陰陽師、猪飼慈雲だ。


 「ご無沙汰しております。党首様。猪飼慈雲、只今到着致しました」


 また、首を縦に振る。小さく、小刻みに二回首を振った。猪飼慈雲の背後に隠れていた絵之木実松。会うのは初めてだ。党首の姿を一目見ようとよく観察したが、性別や体形も分からない。辛うじて座り込んでいるのだけは分かったが、そこまでである。分厚いすだれだ。おそらく内部に灯篭があり、影の大きさが出鱈目になっているのだろう。


 「慈雲さん、お久しぶりです」


 「水上几帳みかみきちょうか」


 軽い挨拶をした陰陽師に目線を向ける。青い装束を着た男性。微笑ましい笑顔を絵之木実松に向ける。絵之木実松は今回の事件の重要参考人として同席している。本来ならばこんな重要な会議の場に出席することは絶対に許されない。それなのに笑顔で優しく手を振ってくれた。こっちも手を振り返す訳にはいかず、軽く会釈をする。


 そこには約半数の名家が揃い踏みしていた。猪飼慈雲いのかいじうん賀茂久遠かもくおん水上几帳みかみきちょう土御門芥つちみかどあくた、この四名が揃ったことになる。残るは四名。


 賀茂久遠かもくおん。あの有名な歴代最強の陰陽師、阿倍清明や蘆屋道満が全盛期だった時代から名を馳せた賀茂家の党首。土御門家と肩を並べる最強の陰陽師一家だ。賀茂久遠様はかなりお年寄りである。真っ白な長髪が特徴でその佇まいから一番風格を感じ取れる。用意された座布団の上で目を瞑り、瞑想なさっている。


 対照的に土御門家の党首様はまだ子供だ。歳は十つ程に思える。座布団に寝転んでまりを転がして遊んでいる。本来ならば党首様の前で絶対に許されないのだが、この場にいる全員が注意しようともしない。勿論、子供であろうともかの有名な土御門家の党首様にお声掛けすることなど、実松には許されない。 

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