粉雪
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「お疲れ様だったね。無事に倒せたみたいで良かったよ」
「おい、口から炎なんて吐かなかったぞ、アイツ。本当にあいつが火災を起こしたのかよ」
「ええ、勿論」
滋賀栄助はとある旅館で目を覚ました。天賀谷絢爛の部下が栄助を助けたのである。森林火災で焼け死ぬことは無かった。布団の上で仰向けのまま寝かされていた。起き上がって辺りを見渡す。高級旅館だと一目で分かる豪華な部屋だった。
暴神立は枕元に置いてあった。没収するような真似はしていないようである。いつの間にか白い浴衣を着せられていた。戦闘時に来ていた装束は泥と灰で汚くなっていたので、勝手に捨てられたのだろう。
「で、お前はこんな所で何をしているんだよ」
「親方様の所へ行く途中だと言ったじゃないか。君が回復し次第、出発します」
天賀谷絢爛はまだ余裕の笑みを浮かべている。掘炬燵に足を延ばし、金色の座布団の上に座り、背筋を伸ばして、花魁のような女性に扇を仰いで貰っている。まるで栄助が独眼巨人を倒すことが分かっていたような。いや、倒せなくても問題ないと思っていたのか。どうにも腹の内が分からない。
「で? 君は結局何者なんだい。貴族である名家『滋賀家の娘』じゃないんだろう」
「それも間違ってはいない」
「ただ過不足である。まだ君には秘密が隠されている」
「誰がお前になんて話すか」
滋賀栄助は葛藤していた。自分が何者なのかを話すべきか。天賀谷絢爛という男は信用できないので語る必要はない。しかし、絵之木実松が真実を迫った時に隠しておくべきか、その判断が正しいのか。
「おやおや、これは残念だねぇ。てっきり教えて貰えるのかと思ったよ」
もう会話を続けないように大きく首を横に向けて無視した。外からは石造りの川が見える。金魚でも泳いでいるのだろうか。庭の手入れも行き届いており、非常に風情溢れる庭だ。秋はもうじき終わる。これから雪景色が見られるのだろうか。そんな取り留めのないことを思い返し。
自分が殺された火を思い出していた。そして、生き返った日のことを。
あの日は粉雪が舞っていた。冷たい世界の中で生き埋めにされた。凍え死ぬ、飢死する、助けてと懇願したが聞き入れてもらえなかった。程なくして氷の世界に閉じ込められた。奴らは私のことを悪霊と呼んだ。ただの人間だったのに。
栄助の目が、紅く輝いた。
「どうかしたかね?」
「いや、ちょっと昔のことを思い出したのさ。お前には関係ない」
「そうですか。動けるのなら、親方様の所へ向かおう。滅多にない救急如律令なんだから」
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