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落雷

雷を司る妖怪として『雷獣』が存在する。狼のような姿で、前足は二本、後ろ足が四本、尻尾は二股になっている。落雷と共に現れる。現代では河童などに比べて知名度は低いが、この江戸時代ではかなりの知名度を誇る。それは人々が落雷を恐れていたからだ。激音が鳴り、火災を引き起こす、正体不明の天変地異。人々は天空がどうなっているのかを想像で考えるしかなかった。そんな世界から生まれた妖怪。


 「召雷暴神立しょうらいあばれかんだち。この刀の本当の姿だ」


 栄助は刀を頭上に振り上げて両足を前後に開き、上段の構えをとる。


 「それで勝ったつもりか」


 独眼巨人も負けじと棍棒を右手で頭上まで振り上げる。すぐさま栄助に向けて振り下ろした。独眼巨人の方が圧倒的に身長が高く腕力がある。そのような状態で鍔迫り合いになれば、栄助に勝てる見込みはないのだが。


 栄助は棍棒を切り裂いた。独眼巨人の皮膚と同じく棍棒も鉄で出来ていたというのに。


 「あ゛ぁ」


 「この刀は百鬼を殺すことに特化した刀だ。通常は料理包丁よりも切れ味が悪いが、百鬼相手なら無類の強さを誇る」


 漂っていた電撃が独眼巨人の身体に感電し始めた。鉄は電気を伝導するために、ダメージにはなっていない。しかし、電気が流動するということは、痛みも感じないということだ。打撃を与えようと、炎で炙ろうと、電撃を浴びせようと、奴は痛みを感じない。つまり、自分の身体の状態を正確に知ることが出来ない。


 「焦げている……」


 全身とまではいかないが、奴の一部の一部が黒く変色していた。空気中の酸素と化合したのだ。そして、暴神立から滲み出ている電撃が遂に奴の一つ目に直撃した。


 「ぐあぁぁあ!」


 独眼巨人は背中から勢いよく地面に倒れた。目を両手で抑えて激痛に苦しみながら絶叫し、ゴロゴロと転がる。痛みを実感出来ない、苦しみを感じ取れない、だからこそ形成が逆転していることに気が付けないのだ。


 「返せ! 百鬼閻魔帳を返せ!」


 「持っていない物を返せと言われてもな」


 「”あのお方”に守護するように言われているのだ! 奪われるわけにはいかない!」


 「誰だよ、ソイツ」


 独眼巨人は答えなかった。盲目の中で長さが半分になった棍棒を無暗やたらに振り回し、叫び声をあげる。痛みを堪えている、そして気持ちが錯乱している。使命を果たせなかった虚しさに。


 「悪いがもうコッチも限界だ。呼吸が苦しい。決着をつけさせてもらうぞ!」


 まず右腕を切断して棍棒を振り回せなくする。そして、奴の腹の上に乗っかった。黒くなった奴の皮膚に刀を突きさす。刀を入れた瞬間に鬼の身体が内部からバラバラに砕け散った。中から電気を注入したのだ。電撃がまた周囲に飛び散る。


 「マズい、気を失う。このままだと焼け死ぬ……」


 栄助は独眼巨人の粉砕を確認したあと、足をふらつかせながら脱出を試みる。しかし、身体が思うように動かない。疲労、怪我、呼吸困難、それらが一気に襲ってきた。暴神立をまともに鞘になおすことも出来ない。地面に突き刺して杖の代わりにして歩く。


 「駄目だ……」


 程なくして滋賀栄助は力尽きた。


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