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頭突

 この鬼は『滋賀栄助が閻魔帳を盗み出した』と思い込んでいる。いや、実際に盗んだ男を滋賀栄助だと聞かされているのだろう。奴は任務を失敗したことに焦っているのだ。コイツの目的は閻魔帳の奪還。それを何者かに滋賀栄助の抹殺に利用されている。


 と、簡単にここまでは考察が届いたのだが、それ以上に滋賀栄助は考えることをしなかった。誤解を解くことに意味はない。奴がどんな役目を持っていようが、関係ない。百鬼は殺す、ただそれだけだ。


 「無暗に切り付けても倒せない。ならば、狙うのは皮膚の柔らかいところだ」


 ドタドタと走って距離を詰めようとする鬼に対し、小石を蹴飛ばして権勢する。奴ははらいもしない。皮膚に当たってそのまま地面に転がった。栄助は身体を屈めて刃を逆手に向ける。そして、地面を切り付けた。ここは森林である。辺りには落ち葉や枯れ木が散らばっている。それを上空へまき散らした。


 「なんの真似だ!」


 棍棒を大きく振り、払いのける。これが栄助の狙いだった。大振りを待っていた。一気に巨人の目の前まで詰め寄った。


 「弱点はそこしかないよな!」


 刀を握りしめて刺突の体制をとる。狙いは目玉。奴の身体で唯一柔らかい部分。


 「ぬぅ!」


 当たらない。ギリギリで首を縦に捻り、刀と角がかち合った。ただの頭突きで凄まじい威力である。栄助の腕力では歯が立たず、後方へ吹き飛ばされた。すぐに起き上がるも驚きを隠せない。簡単に目玉に刀を刺せるほど、奴も油断はしてくれない。


 周りの炎が気温を上げる。栄助の額から汗が滲みだしており、息が荒くなってきた。酸素濃度が低いのだ、呼吸が上手く出来ない。一方、全身が鋼鉄で覆われている独眼巨人は痛くも痒くもない。


 「勝てない……。一旦、退くか」


 相手が強敵であり地の利がない以上は意地を張らずに撤退した方が得策かもしれない。ここまで交戦意欲を最大にしていた滋賀栄助だが、ここまで打つ手がないと苦しくなってきた。


 が、退かない。ニッコリ笑顔になって刀を構える。


 「貴様、閻魔帳がどこにあるのかを知っているのか?」


 「知らねーよ。知っていてもお前には教えない」


 本当は絵之木実松が所持していることは分かっている。だから、今回はあの男がいなくて本当に良かったと思った。


 「本当にこの私に勝てると思っているのか?」


 「当たり前だ。俺は絶対に誰にも負けない。俺は……生き返ったのだから。この蘇った命を燃やし続ける」


 (百鬼を全て殺せ。この世界の人間に任せてはいけない。君の世界の人間が生み出した化け物だろう。百鬼閻魔帳と暴神立を持っていけ。必ず百鬼を根絶やしにしてくれ)


 あの男の言葉が頭に響いた。滋賀栄助にこの二つのアイテムを渡した、青い着物の青年。


 「行くぜ、召雷しょうらい暴神立!!!」


 火事により真っ黒な煙が空へと蔓延していた。その真っ黒な大空から急に雷が落ちたのだ。それと同時に大粒の雨が森林に降り注ぐ。


 「この刀の名前を付けたのは俺だ。この刀には神が宿っている」


 まるで避雷針のように雷が暴神立に収集された。金属光沢でも火炎による光でもない。いかづちによる弾けるような眩い光。


 「さぁ、これで叩き切る!」

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