煙管
暴れ回る鬼と死んでいく部下を横目に、とある人間がいた。煌びやかな装飾品で身を固めたその男。独眼巨人が肌色が鋼鉄なため銀白色に光っているとすれば、この男は金色に輝いている。江戸時代といれば人々が「粋」を求めて着飾り始めた時代である。根付、印籠、煙草入れ、櫛、髪飾り、簪、帯止めなどがそれだ。
その男、煌びやかな橙、赤、黄色の着物に、鳳凰を象った耳飾り。男なのだが長髪で髪を後ろで束ねており、高価な髪留めをしている。指輪や腕輪、首飾りを複数身に着けており、腰には根付をぶら下げている。その隙間から煙管が覗かせる。まさに豪華絢爛。
その男は優雅に上品に、余裕そうな表情でこの戦いを見物していた。椅子に座り、部下に羽で仰いでもらい、高価な酒を嗜みながら。自慢の髭を何度も触り、部下が死ぬたびに何か分かったかのような素振りで、首を縦に動かす。
「これ以上は時間の無駄か。よろしい、撤収じゃ。引き上げるぞ」
「よろしいのですか?」
「『百鬼』という名の魑魅魍魎は理解した。先のお達しにより、退治出来ないことは分かっている。試しに情報を得るため応戦したが、これは本当に倒せぬようだな。この戦いは無駄ではなかった」
「かしこまりました」
すっと立ち上がると、その男が自信が腰に差していた毛皮のついた金箔の扇を持ち上げた。すると、独眼巨人の身体から、橙色の炎が襲い始めた。そして、住居に燃え広がり、傍にいた部下に燃え移る。ただ、鋼鉄の皮膚に覆われている独眼巨人には全く効果がない。
「ふん。痛がりもしないか」
酸欠になって死んだとしても奴は復活する。この炎は倒す為の攻撃ではない、ただの目晦ましだ。
「ものども、引き上げるぞ」
この男の名前を天賀谷絢爛。名だたる陰陽師の一人である。
「いずれ殺してやるぞ、達磨め」
★
絵之木実松は猪飼慈雲に呼び出されていた。実松は殺されることを覚悟していた。最愛の人と共に戦いにいく選択も出来ず、また殺されることを恐怖して逃げることも出来ず、ただ運命の流れに身を任せている。そんな自分が堪らなく嫌だった。
顔を下に向けて、とぼとぼと歩く。殺される可能性を考えると、足取りが思い。ただ、涙も出てこない。心が運命に対して敗けを認めている感覚だ。
「絵之木にございます」
「はよ、入れ」
呼び出された部屋の中には星詠の道具が大量に置いてあった。呪術に使われる道具、天体望遠鏡、地球儀、無限にも思える本棚。猪飼慈雲の個室、いや研究室という印象だ。
「よう来たな。話がある」




