銀白
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その生き物は鬼だった。大木を超える巨漢で、筋肉質な腕で太い棍棒を持ち上げる。虎の毛皮で下半身を隠し、上半身は半裸である。その肌の色は銀白色。まさに鋼鉄。獣の牙、一角獣のような角。
そして、一つ目。
「どこだ、滋賀栄助はどこだぁ!」
人を喰い、家畜を貪り、街を破壊し、木々をへし折り、行進する。
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「目撃情報の意味が分からない」
絵之木実松は滑稽な顔をした。新たなる百鬼の目撃情報があったのだが、どうもその聞き取り調査の内容が曖昧なのである。鬼、巨人、怪物、虎、一つ目小僧、肌が銀色、銅像、阿修羅、ダイダラボッチ。どれが正解やねん。
とにかく巨大なのは間違いない。今までにいなかった小細工なしの暴れ回るだけが能の怪物かもしれない。百鬼閻魔帳を読み返して、とある結論に至った。『独眼巨人』であると考える。一つ目小僧のように脅かすだけの無害な妖怪ではない。人を殺して暴れ回る一つ目の巨人として描かれていた。しかも、神の子供という記述もある。
「力を持った怪物か」
日本神話には一つ目の神が存在する。目が一つしかない妖怪や悪鬼などさほど珍しくない。注目すべきはその特徴だ。この神の能力は「製鉄」なのだ。鉄を編み出す能力。
「今回は厄介な相手になりそうですね、って栄助さん!」
「うおう! テンション上がってきた!!」
この戦闘狂め、そう言わざる得ない。久しぶりに強敵と戦えることがよほど嬉しいのか、全力で腕立て伏せを繰り返す我が妻。豪華な屋敷にそぐわないので即刻止めて欲しいのだが、あまりの気迫に声が出なかった。
「あの、栄助さん?」
「あぁ、独眼巨人だろう。鋼鉄の皮膚で覆われた怪物だ」
「はい。今回の相手は苦戦を強いられるかもしれません」
一番の懸念事項としては、奴の皮膚に暴神立の釼先が通らなかった場合だ。どんなに策を考えても、罠に嵌めても、動きを封じても、肝心のトドメが刺せないかもしれない。
「さぁ、出発だ! 絵之木実松! その一つ目の鬼を退治してやろうじゃないか!」
「無理です」
「っ、え?」
「いや、だから、出来ないんです。ここから出ることは猪飼慈雲様から許されていません。他の名家が揃うまで待機です。そもそも私と栄助さんに自由なんかありません」
「は?」
そんなポカーンとした顔をされても仕方がないのだが。不思議そうに首を何度も横に振られても困るんだが。
「おいおい、そんなの守る気かよ」
「当たり前でしょうが! これ以上勝手なことをしたら我々は殺されます」
「でも、現在進行形で町の人が殺されているんだぞ」
放っておいても、奴は栄助さんを狙っている以上は来る。しかし、今回の相手はおそらく知能が高くはない。闇討ちを狙っていない。栄助に出会えるまで破壊行為を繰り返すだろう。何人犠牲が出ても、上層部は住民の命をそこまで尊重していない。おそらく人員が揃うまで動き出さないだろう。少なくとも栄助を出動させてくれる保証はない。
「そうですけど……」




