陰謀
具体的に考えてほしい。人が星に対して願いを伝える行為をどうやって食い止めればいいのか。冗談じゃない、不可能である。心の中まで制御できるものか。
「でも、どうやって、あいつがここの住民に伝えたっていうんだ」
「そんなことよりも、まず人払いでごわすな。この町に人が寄り付かないようにして」
「そんなこと出来るかな。奴はかなり上空で照っている。あの星が見える範囲がどこまでなのか、詳しく算出しなくては。この災害は小規模じゃないですよ」
あの星に触れない以上は、奴が輝くを止める手段がない。ここは霊界だ、昼間にも太陽の光は現れない。まあ、ここには妖怪と陰陽師しかいないので、一般人にまで被害が及ぶ危険性もないが。
「まてよ。今までの百鬼は全て現界に出現しているのに、今になって霊界に出現した」
一般人は霊界の存在など知らない。なのに、百鬼豪召陣は現れた。ここの作者は陰陽師関係者なのか?それとも、もっと別の誰かの陰謀か。
「考えても無駄だ」
この町が生まれ変わっていく。削れた台地が元通りになり、建物が現れ、食べ物が降り注ぎ、死んだ人が蘇った。泣いて喜ぶ人々が眼光に映る度に心が打ち砕かされそうになる。違う、紛い物だ。現実じゃない。触れられるだけの幻影を見せられているだけだ。
「駄目だ、駄目だ!!!」
「人々は、あの神を尊敬する。もっともっと、願いはエスカレートしていくだろう」
ここ数日の災害が嘘のようだ。何もかも元通りになった。なったように見える。誰も悪鬼の本質に気が付いていない。
★
「無駄だよ」
滋賀栄助、絵之木実松、猪飼慈雲の前に、とある少年が現れた。青い目をしている金髪の小さな子供。だが、日本人の顔つきじゃない。まるで……西洋の子供だ。
「はじめまして、デカラビアだよ」
名前を名乗ったのだろうか。カタカナな発音だったので、何を言っているのかよく分からなかった。
「デカラビアだよ、覚えてよ」
少年はにっこりと笑った。両手を大きく広げて、腕を大きく頭上で振った。
「お前が噂を広めたのでごわすか」
殺意の籠った声で猪飼慈雲が言葉を発する。そして身を乗り出して今にも切り掛かりそうな栄助を、絵之木実松が全身で包んで止める。相手がどんな能力を持っているかも判明していないのに、そう簡単に飛び掛かるじゃない。遠距離攻撃を多用してくださいって散々言ったのに。
それにしても会話に乗り出す慈雲様が凄い。対話が可能でも、試みようとは思えなかった。
「噂を広めた? 違うよ。僕自身がデカラビアだよ。あなた達に会いに来たの」
そう言って指を天空に掲げた。敵を目の前にして油断したくないのだが、恐る恐る頭上を見上げる。そこには、あの髑髏の恒星は消えて無くなっていたのである。そして、この一言。
「僕がデカラビアだよ」




