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七夕


何の対策も思い付かないまま、夜を迎えてしまった。あの星はまだ健在である。自ら暗闇を煌々と照らしている。表情を一切変えずに。


「人々が集まってますね」


各地方から首都再生の為に駆けつけた連中だ。例えどんなに壊滅的な被害を受けても、御上のお膝元である京の町は、陰陽師にとって最も大切にすべき財産だ。


百鬼がまだ空中にいるにも関わらず。


「うーん。あいつはどの辺にいるんですかね」


顔や姿が見える以上は、肉眼で見えるレベルの位置にいるはずだ。対流圏を越えて成層圏程度かと推定できる。暗くなって周囲と比較しやすくなった。奴はおよそ地上から1000mほど離れた地点にいる。


「どんだけ巨大な鬼なんだよ」


建物や地形に合体した鬼は実在する。しかし、あの髑髏の百鬼の大きさは異常だ。今まで見てきた鬼と比較するのも馬鹿らしいくらい桁違いなのだ。


「こいつ、斬擊で殺せないかもしれない」


あそこまで巨大だと切り傷が致命傷になるのか、非常に怪しく感じてきた。


「おい、あいつは何をしている」


「はい?」


栄助の声に導かれて川原の下を覗くと、そこには力強くお願いする人間の姿があった。星に願い事している、今日は七夕でもないというのに。


「いや、まてまてまてまて」


まずい。ここの住民はあの星のシステムに気がついている。願い事は全て叶う。文献通りだ。しかし、人の行きすぎた願いなど、破滅するに決まっている。この地にやつが降り立った理由が分かったかもしれない。


この町は竜の軍勢の進撃により壊滅している。つまり、この地には物欲が溢れているのだ。人は物を欲しがっている。ひもじい思いをしている。二度と帰った来ない命を憂いて、冷静な判断力を失っている。


「これが狙いだ。二次被害を狙っているんだ」


次の日になれば願いはことごとく叶うだろう。それはもう永遠に。しかし、あの悪鬼の思う壺だ。奴の狙い通りだ。人間は欲望に忠実になると必ず身を滅ぼす。


 「でも、なんであの星に願いを伝える人が現れたんだ。今時本気で星に願いを伝える人間なんていないだろうに」


 「そりゃあ、『願い事が叶う』って助言したのも、あの星に決まっているからだろ」


 栄助の言葉に気づかされる。百鬼にはそれぞれ自我がある。ただの暴れ狂う怪物ではない。それは前回の大鼠戦ではっきりしていることだ。


 「あの星が……。何もしていないように見えたのに」


 「案外、本当は鬼でも髑髏でもないのかもな」


 だったら何だというのだ。あの鼠のように神だとでもいうのか。

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