押収
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「猪飼慈雲様……」
「おお、この巨漢のおっさんと知り合いなのか」
絵之木実松はもちろん知り合いではない。ただ猪飼慈雲が有名人過ぎるのだ。あらゆる悪鬼を葬ってきた実力者。本部の護衛の依頼を蹴り、悪霊討伐と天文学で名をはせる本物の実力者。陰陽師の中でその名を知らない人間がいないのだ。
「絵之木実松と滋賀栄助でごわすな」
随分と平凡な話し方で声を発している。見た目は修行僧のようでもあり、戦国武将のようでもある。好戦的な滋賀栄助と違ってどっしりと構える重量感があり、見た目だけで圧倒される。
「あんたが俺たちを檻から出してくれたんだろ、ありがとな」
「栄助さん。駄目です。この人は陰陽師の中でも超格上の……」
「あぁ? いや、俺は陰陽師じゃないし」
折角檻から出して貰ったというのに、無礼千万で打ち首になったら話にならない。ただ、大声を出すわけにもいかないので、焦り声で滋賀栄助に訴える。まあ、華麗に無視されているが。
「いらん。見せかけの忠義などいらん。それよりも、わしはあの奇妙な鬼を殺したい」
謎の星型の髑髏。骸骨の姿をした妖怪など、さして珍しくもないのだが、さすがにあれは異常だ。
「なんか弱そうだな、あれ」
「栄助さん!!!」
猪飼慈雲を差し置いて百鬼の方向を眺め始めた栄助。それを必死に止めようとする実松。
「せっかくなら竜の軍勢と戦いたかったぜ」
「わしも、そちらとの戦闘を想定してここまで来たんだが」
低い男の声だ、決して年老いている声ではないのだが。空中に浮遊している謎星を、慈雲は同じように眺め始めた。まるで天を仰ぐように。
「えっと……私たちを解放してくださった理由って」
「お主らから押収した品々を検証したが、現在の我々の知識では到底理解できないものが多かった」
それは絵之木実松が最初の段階から思っていたことがある。理解できないような内容が多々書かれているのである。この作者が日本人じゃないと思ったくらいだ。
「この謎星のストーリーもよく分からないですよね。いつの間にか謎の星が現れて、全裸の人間になって、人間の言うことを何でも聞くとか」
この物語はなかなか面白かった。主人公はこの星に願いをするだけで何でも願いが叶う。それも制限なく、何回でも。金も家も女も、すべてを手に入れる。だが、空中に浮遊する物体を主人公の所有物にすることは出来ない。あらゆる人間がその星にお願い事をしにやって来る。町は大渋滞となった。
「そして、人々は願うこととなる。あの星が自分だけのものになりますように、と。その村の住民と村人。その全てが死に絶えた、ってお話です」
「救いの神ではなかったということでごわすな」
人間の純粋な欲望を利用する悪鬼。
「この押収物を読んだ所で倒し方は載っていない。そして、この刀は木刀よりも切れ味が悪い」
暴神立を返してくれた。栄助が何食わぬ顔で受け取る。木刀よりも切れ味が悪いのではない、百鬼以外は切れない刀なのだ。
「わしは、あの鬼を殺したい。そのためには、今まで百鬼と交戦してきた、実際に倒してきた、貴様他たちを呼んでくる方が効率がいいと判断したまででごわす」




