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棘皮

謎星。あらゆる生物を召喚する意味不明な星。人間の頭蓋骨を模した星。


 「奴が本格的な攻撃を仕掛けてこないのは、私が姿を現さないからだと思う」


 「百鬼の狙いは栄助さんですもんね」


 通常の妖怪と違い、百鬼には寿命がある。永遠に生きられる妖怪は、死んだとしても何度でも年月さえ経てばいつか復活する。対照的に百鬼の妖怪達は物語が終わってしまえば、それで終了だ。


 「だから奴らは幽霊である俺を狙っているんだよ。死にたくないから、延命したいから」


 「そうなんですね……ってもう少し分かりやすい説明をしてください」


 「俺が説明など満足に出来ると思うか」


 「思いません!」


 ★


 正体不明の星を荒廃した町の地上から見上げる男が一人。猪飼家いのかいけ党首である猪飼慈雲いのかいじうん。この時代にいる人間とは思えない、身長2mを越す大男なのだ。筋肉質で巨漢。髭と肌の色が灰色でまるで獅子のような顔をしている。目つきが鬼のようであり、全身から殺気を迸らせている。陰陽師なのに、なぜか武将のような鎧を身に着けている。


 「あれが百鬼でごわすか」


 「作用にございます」


 「対話不能、接触不能、撃退不能ときたか。厄介でごわすな」


 古風な口調と随分と低い声から、お付きの者どもをも圧倒している。あの星は叩き落そうにも、あまりに上空に位置している。動いているように見えないのだが、何故か距離感がつかめない。


 「妖怪は夕方にその妖力を増す。星となれば輝くのは夜中であろう。今は日中だが、日が暮れれば何か行動を起こすやもしれん」


 「いえ、ここ何日も経過観察を続けていますが、全く反応がありません。消えることなく、動くことなく」


 「うーむ」


 猪飼慈雲が動いた理由は親方様からの命である。全国でも有数の陰陽師を集めて、本格的に百鬼を倒すことを検討するのだ。だが、江戸時代は交通手段が全く発達していない。メンバーが集合するには時間がかかる。そこでいち早く到着し、陰陽師としての実力が申し分なく、天文方でもある猪飼慈雲に、この百鬼の討伐命令がくだったのだ。


 「ふむ、それにしても眩しい。奴は恒星か」


 恒星とは自ら光を出す星のことである。まるで太陽のような存在だ。


 「なるほど、なるほど。何も読み取れん。五芒星の形をしているが、特に星という解釈をすべきではないのかもしれんぞ。甲殻類や魚の尻尾も見える。これはもしや……ヒトデではないか」


 棘皮きょくひ動物はその名の通り、皮膚に棘があるのだが、あの空中に漂う物体にそんなものがついてはいない。そりゃあ違うだろって空気が部下の中で浸透する。


 「このままだろ埒が明かないな。その今まで百鬼と戦ってきたという、なんとかという連中を連れてこい」


 「よ、よろしいのでしょうか!」


 「構わん! 親方様に許可など貰ってはいないが、それでも構わん! 俺が許す!」

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