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幕府


江戸幕府によって設置された暦の管理や天体運行の研究機関を「天文方」という。いずれも陰陽機関である。


もっとも古来から存在する由緒正しき御家、土御門家。また、それにあたるのが猪飼(いのかい)家である。陰陽道は星に例えられることが多く、妖力の源は宇宙にあると考えられる。


その、天文方が百鬼を発見した。謎の天体だ。


骸骨のような頭に星の形をした光が残っている。その光からは猫の尻尾、ナメクジの尻尾、蛇の尻尾、甲殻類の腕、竜の腕、ゲンゴロウの爪、馬の足、蛸の足、鳥の羽、蝙蝠の羽、虫の羽、鹿の角が見える。髑髏の目の穴からは針金のような、汚ならしい導線が二本づつ見える。


その飛行物体だが、何をする訳でもなく、ただ空中に静止している。まさに意味不明。


それは壊滅した京都の町に現れた。誰を襲う訳でもなく、何かを消し去る訳でもなく、ただそこに現れたのである。


分かったことが数点ある。百鬼は自然発生していない。誰かが自発的に召喚している。謎の星がお札のような物から現れた瞬間を目撃したのだ。

これを政府は百鬼強召陣(ひゃっきごうしょうじん)と名付けた。


このお札から京を壊滅させた無数の竜の軍勢が現れ、この穴から消えて行った。また、その直後にあの星も現れたのである。


神様の助け船とでも、言うのであろうが。滋賀栄助と絵之木実松の死刑は、このアクシデントにより一時中断となっている。


このお札だが、回収できない。触れられない。何もかも透き通るように、通り抜ける。まるでこの世に元から存在しないように。


このお札が何よりの恐怖なのだ。また、別の鬼が現れたら、今度こそ収集がつかない。生き残った地元の人はこれに怯えている。


「夫婦揃って獄中とは」


「殺されなかったな! やっぱり不安がりすぎなんだよ」


「いや、あのタイミングで百鬼が出現してけれていなかったら、殺されていたと思います」


晴れて夫婦になった二人だが、幸先は最悪だった。正々堂々、二人で京の町に乗り込み、お偉い様の目の前で今までのやって来たことを嘘偽りなく説明。


結果は二人とも獄中に閉じこれらた。身動きが取れないように、腕を縛られ、足に鉄球をつけられている。武器どころか所持品は全て没収された。百鬼閻魔帳も暴神立も当然ない。


「噂になっているお札だけど、私と暴神立ならすぐに破壊できるなのにな」


「そうですね。また、栄助さんしか、あの妖怪は退治できませんし」


「本当にこれ馬鹿げているよな。犠牲者出ないと理解出来ないのかな。あの、変な眉の連中」


「言ってあげないでください。あれでも私の大事な上司です」


目の前に退治すべき仇敵がいるのに、全く動けない。ため息をついていた。

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