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溶岩

 この吸血鬼は何事にも無関心だが、不眠で深夜を徘徊し、過食で山ほどの人間を喰らい、不安や焦燥でイライラしている。攻撃方法は雑でいい加減。非常に短気な性格で暴走機関車と化している。先ほどと同じく柵野栄助に幻覚を見せる。巨大なムカデ、毒蠍、毒蛾、針虫、毒蜘蛛、毒蟻が上空から降り注ぐ。地面から湯水の如く湧き出てくる。毒虫がワラワラと出現した。


 それを触れることなく睨みつけるだけで全て爆発させる。


 「もうその手は通じねぇ。本物だろうが偽物だろうが、全てを殺すって決めたからな」


 声はもう普通の女性の声じゃない。悪霊のそれだった。


 「卒業させてやるよ」


 次の瞬間に降魔忍者の身体に真っ赤な亀裂が入る。発泡したマグマが身体を溶かすように、原型が崩れていく。身体から離れて地面に落ちた肉片が溶岩のように固まる。


 「ぶげぇぇぇ」


 醜い姿と痛々しい声を発して吸血忍者は呪い殺された。残るは三匹。


 これが刺殺でも銃殺でも圧殺でも毒殺でも絞殺でも殴殺でも断殺でも撲殺でも自殺でもない。


 呪殺だ。呪い殺したのだ。もう理屈など何処にもないのだ。


 包帯男が猪一番に逃げ出した。逃げ切れないという事実を分かった上での行動じゃない。生き物の本能的な行動だ。もうこの悪霊と一緒の空間にいることが耐えられなかった。およそこの世の物とは思えない悲鳴をあげて、泣き叫ぶように地面を駆けだす。そして……転んだ。ズルズルと地面を這い蹲りながら元居た場所へ戻される。


 そして突如として現れた雷雲が身体を包み込んだ。物理法則を無視して真っ黒な雲は包帯男を上空へと攫う。包帯男も必死に暴れて抵抗するが意味は無い。ゴロゴロと雷鳴が鳴り響く。感電死、焼死なんて言葉では生温い。発電したばかりの稲妻に全身を砕かれる。地面には何も帰って来なかった。ただ、妖力の反応が消えて天空に塵が舞うのみ。残りは二匹。


 「うわぁ」「くっ」


 勝ち目はない。もう殺されるしかない。元の世界に帰るとか、元の時代に帰るとか、そんな話題を話していたのが馬鹿馬鹿しく感じる。圧倒的だ。最初から頭の何処かで理解していたが、我々が敵う相手ではなかった。相対するもの恥ずかしいくらい相手は完全なる悪霊だった。


 レベル3柵野栄助。


 「貴方様のお力に感服致しました。どうか降伏させてください」


 人狼が頭を下げた。両手と両膝を地面につけて低く体制を取る。服従の意を示した。勿論、殲滅者厳雷狼に忠誠心など微塵もない。しかし、この場は乗り切らねばならない。相手の実力は圧倒的だ。暫くは寝首を掻くのは不可能だろう。従ってやろうじゃないか。お前を鑑賞して、お前に干渉して、お前に完勝してやる。恥を忍んでやるぞ。


 「おいおい。獣の服従のポーズは土下座じゃないだろう。お前が犬っころなら腹を見せるべきじゃないのか」


 やっぱり悪霊らしい歪んだ狂気の声質。人狼は怯えながらも体制をクルリと変えて仰向けになり腹を見せた。上目遣いに顔をあげる。そして恥ずかしそうに微笑んだ。そして、次の瞬間に腹を思いっきり踏みつけられた。まるで重金属でも落とされたかのように。地面にクレーターが出来るほどの衝撃で。人狼の内臓は原型が分からないほど破裂する。


 「これさぁ。昔からなんだけど、私は犬が大っ嫌いなんだよ」

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