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集落

 この言葉を聞いて滋賀栄助はニンマリと笑う。追い風だ。この馬鹿は私に服従すると言っている。いいだろう。使い倒してやろうじゃないか。


 「確かにそうかもしれない。だが、淵神様の祠なんてお前は分かるのか」


 「分からねぇ。でも、アイツだって困っているはずだ。柵野栄助を殺したがっているはず……。このままじゃ自分が殺されるからな。だったら……」


 敵の敵は味方。そう言いたいのだろうか。冗談じゃない。昭和の時代に生きていただけの人間に、同じ立場扱いされるのは癪に障る。獣畜生と同等に数えられるのは耐え難い。お前と一緒にするな。私は世界を恐怖のどん底に叩き落した悪霊だ。お前のような死体とは違う。


 何処からともなく祠が現れた。本来は集落の入り口や道の辻、奥深い山奥や海岸の絶壁などに祀られる。しかし、今回は何てことない場所から出現した。切妻屋根を備え、厨子に見られるような観音開きの戸がある。勝手に中が開く。その中には液晶型のテレビが現れた。電源が入っており、中では砂嵐が吹き荒れている。


 滋賀栄助の能力が発動したのだ。このテレビから忍者も包帯男も連れ去った。一方的に三次元に介入する技。まさに四次元を支配する能力。自分の妄想世界に実際の腕を流し込んだのだ。そして……その両腕を人狼が掴んだ。


 そして……気色の悪い笑顔を浮かべる。待ってましたと言わんばかりに。とっても嬉しそう。コイツは助けを乞う気持ちなどない。利用する気だったのだ。その太い腕で逆に滋賀栄助を江戸時代へ引きづり込もうとする。画面の外の人間でも掴んでしまえばコッチのものだ。


 滋賀栄助が狂気の顔を浮かべた。不快を通り越して不愉快。自分が見下していた生き物からの報復など看過出来るはずもない。苛立ちと憤怒が爆発する。腕から溢れんばかりの妖力を流し込む。しかし人狼は眉一つ動かさない。嬉しそうに笑みを浮かべるだけ。自分の皮膚が真っ黒に染まろうとも。


 殲滅者厳雷狼。その気持ちの悪さは……世界中に散らばる人狼伝説を彷彿とさせるものだ。


 「アイタタタタ」


 激痛が全身を駆け巡っているはずだ。しかし、それを喜んでいる節さえある。滋賀栄助は物理的な力は弱い。少しずつ、少しずつ、画面の外側へ引きづられていく。単純な綱引きなら腕の太い人狼に軍配があがる。


 「お前達……何をしている!」


 手下にした忍者と包帯男に足首を掴ませた。援軍だ。逆に人狼を画面の中へと引きいれる為に。しかし、此処にきて……、またも裏切られる。支配したと思っていた忍者と包帯男は……滋賀栄助の足首を爪をたてて引っ掻いた。

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