予告
上体を起こして両手を開く。悪霊の祭壇が出現し、その中に汚されし淵神の祠が出現する。
「さて……」
テレビの画面の中から滋賀栄助が江戸時代に降り立つ。わざわざ妄想の世界に入り込んできた。安全地帯を自ら捨てた。ツインテール、胸元が開いて臍出しでミニスカートで、可愛らしさを全面的に出した女の子。金髪でピアスを開けてリストバンドを両手に巻いて……。
顔は歪んでいる。
「残るは……包帯男と人狼か……」
と、身構える先に……何者かが……此方へ飛んで来る。凄まじい妖力。思い出すも恐ろしい怪物の瘴気。間違いなく柵野栄助だ。もう反射神経的に気が付く。考えるまでもない。柵野栄助が何よりも優先して私を殺しに来ている。一切の容赦も躊躇もない。私がこの世界に出現するだけで……居場所を察知して襲い掛かっているのだ。
「だめだ」
すぐに画面の中に戻った。一刻の猶予も無かった。奴は何としてでも殺す気だ。眠っていた恐怖がまた心を襲って来る。瞳孔の拡大し心拍数が上昇する。呼吸が苦しい。鳥肌が立って寒気がする。目玉から涙が零れた。
こわい、こわい、こわい、こわい、こわい。悪霊が私を殺そうとしている。
「駄目だ……一瞬で襲うしかない」
画面を切り替える。チャンネル先には三匹の百鬼がいた。包帯男が消えたことで困惑している。さすがに何の予告もなく二人の仲間が消えたら恐ろしく思うのも当たり前だろう。ホラー映像によくある趣向だ。一人……また一人消えて行く。
泥人形は必死に仲間を探して回り、獄面鎧王は苛立ちを抑えられず樹木を切り落とす。人狼は顔の形が変形するほど喜んでいる。警戒指数が上がっている。不意打ちで攫うのが難しくなった。もたもたしていられない。奴は画面に罅を入れた。いずれこの場所は安全地帯ではなくなる。
「くっ……あと二匹なのに……」
よく見ると何やら揉めているようにも感じる。人狼が二人から責められている。音量を上げて声を聞いてみると、何から叫び声が聞こえた。不安感が頂点に達している。落ち着きを失った小隊が仲間割れを起すのは必定か。
「お前……この状況で独断で動く気か」
「悪いことは言わない。全員で行動した方がいい」
「だ~か~ら~。もう俺たちに勝ち目はないの!」
人狼は呆れ顔だ。戦意を失っているという意味ではないが、二人とは明らかに意見が分かれている。どうやら人狼が勝手に一人で行動しようとしているみたいだ。願ったり叶ったりの状況。これは舞い降りたチャンスか。
「このままじゃ柵野栄助に殺される。ならば……淵神に服従した方が生き残る可能性が高いだろうが!」




