蝸牛
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言うまでも無い。滋賀栄助は焦っていた。このままでは殺される。天下無双、唯我独尊、向かうところ敵なし。そんな世界を恐怖で支配した最強生物である滋賀栄助が恐怖で震えていた。自分を完全なる悪霊にした存在。見下していた他人の妄想は……自分の首先に掴みかかっている。このままでは……きっとコイツに殺される。
「どうにかしなきゃ……どうにかしなきゃ……」
奴は私を世界を滅ぼす程の悪霊に仕立て上げてくれた。しかし、それは奴も同じ。本気を出せば奴は地球そのものを爆破して生き物を全滅させることも出来る。理屈じゃない、感覚でそう感じる。四次元には手を出せないと思っていたのに。私が閉じ込めた妄想の世界から飛び出してくるつもりだ。まさの悪霊のような真似だ。
「アイツを殺す方法……いや、無理だ……殺せない……」
心臓を貫こうと、首を切り捨てようと、火炙りにしても、冷凍庫に閉じ込めようと、宇宙空間に放り投げても死なないだろう。相手も悪霊だ。物理攻撃が効かないのは彼方も同じこと。奴を殺す方法なんて……呪い殺す他にない。
「時間がいるな」
荒廃した世界、テレビの画面だけが点在する寂れた世界。辺り一面には何も生き物が生息しておらず、砂漠が広がっている。画面の前で布団を背負い込み体操座りをして蝸牛のような姿になっている。恐怖で指の肉に噛み付いた。爪は剥がれて指先は真っ赤になっている。
「時間稼ぎだ……兎に角コマがいる……」
テレビのチャンネルを切り替える。残っている生き物を探す。大阪城の天守閣にいる水上几帳と土御門芥。こいつ等は無意味だ。洗脳出来たとしても弱すぎて話にならない。次に絵之木実松。もうこの男は戦いの場から降りたと見ていいだろう。人質としての勝ちも無い。残るは……。
「おっと……百鬼がまだ5匹だけでも残ってくれていた。こいつ等なら使えるかもしれない」
包帯男、人狼、泥人形、そして……忍者。この四匹に自分の妖力を加える。『滋賀四天王』とでも呼んでやろうか。薬袋的の時代に彼女と仲のあった四人だろう。それなら多少なりとも油断や容赦をするかもしれない。そう思って忍者を……攫った。テレビの中に引きずり込んだ。両手で胴体を鷲掴みにして抱き着いて……砂埃が舞う画面の中に攫った。
そして今……妖力を注いでいる。次に包帯男を引き摺り込んだ。コイツにも妖力を浴びせるように加えていく。残り物には福がある。この四匹で何とか足止めをする。
「妖力は……『恨めしい』という気持ちがあればいくらでも増やせる。時間さえかければお前を殺せる」




