完膚
怪鳥が死体を喰らう。勢いよく平らげていく。腹が膨れていき身体が丸く変形していく。黄泉獄龍の死体を喰らった武雷電の死体を喰う。その妖力が集結していく。
「四次元には触れられない。いや、俺はそうは思わない」
感動的な映像を見たら人は涙を流す。演劇の熱気は観客にも伝わる。心に影響がある以上は、身体に影響があるも同じだ。特にこの世界を作った張本人相手に吹きかける攻撃ならば。
「お前は私のことを恐れている。再開を嫌がっている。だから絶対的な安全地帯から高みの見物しか出来ない。お前は悪霊の風上にもおけない臆病者だ。冷静に考えれば、悪霊においてあらゆる箇所が見える能力なんて、当たり前すぎて凄くもなんともないじゃないか」
奴は以前の世界……昭和の時代にも直接的には姿を現さなかった。最後まで会話をすることも顔を合わせることも無かった。誰かと結婚させて、逃避行させて、新婚旅行させて、時間旅行させて、この世界に封印でもするつもりだったのか。時空を超越する程の悪意は……お前だけではない。
柵野栄助の深呼吸と共に……巨大な群鶏が痙攣を始める。目がグルグルと回転し、頭を激しく上下に動かす。まさに悪鬼羅刹。狂気を体現した姿。妖力を圧縮した爆弾。遂には周防を覆い尽くしていた泥を全て口の中に飲み込んでしまった。嗚咽を繰り返して嘴を天空に向ける。
「さぁ、さぁ、さぁ、大爆発だ」
次の瞬間に……怪鳥は消し炭になった。溜め込んだ妖力が一気に爆風となって周辺を吹き飛ばす。轟音と爆煙が空気中に蔓延する。樹木が倒れ、地面は焼け焦げ、雲は真っ黒に染まる。そして、今まで武雷電の泥に埋もれて死に絶えた生物が……真っ黒な炭になった。
程なくして何も聞こえなくなった。何も動かなくなった。爆破後の何もない更地だけが残る。
「世界を滅ぼした程度で調子に乗るなよ。お前は所詮は私の後付け設定だって事実を思い知らせてやる。今度こそ完膚なきまでに殺してやるぞ」
勿論この光景も滋賀栄助は見ていた。柵野栄助が気になって仕方がない。画面の中の安全地帯から、爪を前歯で噛み、指先から血が流れる。両手ば真っ赤に染まる。怖くて仕方がない。自分より知名度があって、強力な波長を持ち、深い妖力を持つ生物が。確実に自分を恨んでいるであろう悪霊が。
彼女が見つめる画面には罅が入っていた。先ほどの爆風で画面に傷を与えたのだ。滋賀栄助が恐怖で震えだす。目の前にいるこの女。画面の中からコッチを鋭い目で睨む……この女が。その殺意が画面越しからでも伝わってくる。あまりにも強大過ぎる恐怖。




