狭間
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ここが逆転の機会だ。やはりチャンスは眠っていた。交渉相手がテーブルに座ってくれた。
頭のオカシイ怪物が此処にも一人。百鬼:殲滅者厳雷狼。人狼の姿をして擬態能力を持ち、西洋の人狼伝説に肖る気色の悪さを持つ。口が裂ける程大きく、灰色の体毛を持つ。コイツにこの時代の名家の党首は三人も殺された。狡猾、卑劣、残忍、それでいて自信家。
奴は百鬼の数が減るのを待っていた。百鬼の中で生き残った一人が最強の悪霊になれるなど、そんな嘘っぱちは過去に捨てた。奴がここまで派手な動きや挑戦的な行動をしなかったのは、百鬼将よりも柵野栄助よりも、裏側に存在している人間がいると踏んでいたからである。その想定は見事当たった。
「さぁ、こいつ等を使って交渉だ」
残る百鬼は五匹。その中の四匹は一緒に行動している。泥人形、包帯男、獄面鎧王。また、逃げ出した一匹は忍者のような姿をしていたな。さて、こいつ等をどうやって利用して、別世界にいる悪霊と交渉するべきか。悩ましい、楽しくて仕方がない。自分にも勝てるチャンスが巡ってきたのだ。
最強の悪霊、世界を滅ぼしうる悪霊、それが二匹存在する。だが、一匹は……全く干渉できない。画面の外に存在する四次元的な存在だ。裏を開けせば奴も此方を攻撃出来ない。無敵なのは我々も同じだ。だからこそ交渉の余地がある。
人狼はほくそ笑む。
「これからどうなるの?」
「元の世界に戻るなんて、そんな夢物語は捨てた方がいいかもしれませんね」
「やっぱり戻れないの?」
「えぇ。過去の世界に移動するという時間旅行は人類の力で対処できるような簡単な原理ではありません。矛盾に満ちています。我々は時間と空間の狭間に捨てられた迷い子です。救出される道理がない」
次元を移動できる程の妖力は集められない。柵野栄助も倒せない。この世界から逃げ出す方法なんて無いに等しい。そう考える他にないのだ。
「淵神様ねぇ。色々な生物の相関図が出来る自然地帯の神聖なる地。確か河童とかが住み着く場所だったよねぇ」
滋賀栄助、別名『淵神様』……という究極生命体は別次元を支配していた。この世界は彼女の妄想であり、画面の外の現実は……アイツの現実。現実と理想の区別をつけるには、夢から目覚めるしかない。
「おいおい。あるじゃねーか。妖力なんて使わずとも画面の外に行く方法が!」
その言葉に一同が振り向く。口の裂けた人狼は高らかに宣言した。
「ホラー映画の鉄板だぜ! 祠を探すんだ! 淵神様の祠をなぁ。ソイツを見つければ……いけるぜ!」




