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砂嵐

辺りが炎に包まれようと、津波が押し寄せて来ようと、核兵器が飛んで来ようと、そんなものは何のダメージにもならない。辺り一面の空気が無くなっても、痛くも痒くもないだろう。『此処にいない』、それ故に無敵。画面の外から覗いている視聴者にダメージは与えられない。


 「お前……今、どこにいる」


 「さて、どこでしょうね」


 ニンマリと笑う。嬉しそうに、微笑ましく、何か楽しいことがあったように、幸せそうに笑う。


 「うふふふ。あははははは」


 ★


 「誰ですか?」


 「私は……この世界の生き残りです。貴方達とは違う世界の人間です。もう何人生き残っているのやら……。私は貴方たちにメッセージを送りたくて声を届けています」


 途切れ途切れの聞きにくい声。女性の声だと分かる。何やら必死に訴えているが、よく聞こえない。人型ロボットに映し出された真っ黒な画面。そこから……何かが話しかけている。もう戦うことも、生きることも諦めていた土御門芥と水上几帳。この二人は大阪城の天守閣で阿保面をしながら、何やら女性のか細い声に耳を傾けていた。


 「え? 生き残りって……そんな滅びかけているみたいな」


 「もう人類は滅びかけています。悪霊……柵野栄助によって……」


 滅んでいる? そんな馬鹿な。柵野栄助は……だって……え? どれ? 柵野栄助ってなんだ? 今何処にいるんだ? 江戸時代に死んだ滋賀栄助の霊体であり、薬袋纐纈の妄想として産まれた孫娘であり、その二人が合体して重なり合って……薬袋的は殺されて……え? なに?


 じゃあ名も無き戦乙女として召喚された百鬼の人格と……江戸時代に存在していた絵之木実松の嫁としての人格……それはどう解釈するのだ。滋賀栄助は? 薬袋的は? 結局どれだった?


 何が正しくて、何が正しくないのか。


 「あの……」


 「皆殺しにされました。柵野栄助は全ての人類を呪い殺しました。多くの人間が何の理由もなく、顔を恐怖に歪めて死んでいきました。世界は滅亡したのです。もう生き残っている人間も殆どいません。どうか……どうか……世界を救ってください」


 砂嵐の画面が少しずつ見え始めた。女性の顔が映し出される。そこには恐怖に歪んだ顔の女性がいた。目に溢れんばかりの涙を溜めた女性。両手を握って、祈るようなポーズで、身体を恐怖で振るわせていた。顔から上しか見えないが、明らかに情緒不安定だ。


 次の瞬間に悪霊に包丁で頭を刺された。女性は血飛沫をあげて画面の下に沈んでいった。一瞬の出来事である。この顔は先ほどまで一緒にいた滋賀栄助のものではない。薬袋的のものではない。……この悪霊は……誰だ? 


 「お、おれ……コイツを知っている。こいつは……昭和の時代の薬袋纐纈の事件とは一切の関係がない。コイツは……この時代に死んだ人間だよ。滋賀家の跡取り息子として……武士として育てられた……富士の樹海で投身自殺をした……悪霊だ」


 そう。先ほどまで柵野栄助と周防で話し込んでいた画面外の悪霊。ツインテールでピアスを開けて、胸元が開いた服を着て、短パンスカートに、臍だしTシャツ。そして、この世の物とは思えない恐ろしい笑顔。ソイツが……コッチを睨んでいる。

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