揮発
高らかに言い放った。自慢するように、誇らし気に言った。
「要するにストーカー野郎ってことか」
「違うよぉ。第四の壁の突破なんだよぉ」
現実の世界とフィクションの世界は相互的な不可侵の領域である。互いが互いに影響を与え合うことが出来ない。つまりコイツには誰にも干渉できない。画面の外から覗いているだけの人間を、どうやって攻撃するのやら。劇を踊る役者は観客に話しかけられない。これが四次元だ。
「君はとある寂しいお爺さんの妄想から生まれた幻想だ。そこに現実を擦り合わせてあげたのが……アタシだよ。柵野栄助という二つ名を与えて具現化させた。お前と私は人々が噂をする中で徐々に融合したんだ。その噂をしていた連中が……百鬼だよ」
冷気が漂う。悪夢が蔓延する。邪悪な景色が辺りを取り囲む。
「でぇ? この世界は何なの? どうして自分が死んだ時代に戻って来た」
「ええ? 馬鹿なの? もう話は聞いていると思うけどさ。この世界は2020年だよ。貴方が生きていた世代よりも新しい時代なんだ。私が死んだ日から一年間を永遠に繰り返している。この時系列を『映像』に変えたんだ。いわばフィクション、ただのマヤカシ。私が作った映像作品だよ。妄想を現実化するんじゃない。現実を妄想に変えた。妄想の世界に閉じ込めた。二度と現実世界の時系列には戻れない。狂ってしまった世界だよ」
つまり江戸時代も、この世界の住民も、この目に映る風景も、陰陽師の存在も……全てが嘘。
「端末世界とは言ったものだよね。ただの妄想を具現化させた映像の中の世界なの。これは……私が外側から覗いているただの妄想なんだ」
だから……元の世界には有り得ない生物が複数存在している。
「あぁ。もういいや。お前の話を聞いても楽しくない。とっとと殺し合って決着つけようぜ。この世界をバラバラに崩壊させてやる」
「それって……あの怪鳥を爆破させて?」
「あぁ。お前の妄想は見飽きた。他人の妄想に支配されるなんて……最悪の気分だ」
武雷電の泥を救い上げた。そして奴に投げつける。まるで水遊びをしているように。しかし、揮発油のように引火して爆発する。その火の粉が燃え上がり、辺り一面が火の海と化す。柵野栄助の妖力を爆撃に変える能力はあっさりと無効化された。攻撃は……奴の身体を擦り抜けたのだ。ホログラフィック。此処には奴が存在していない。亡霊よりも悪夢だ。奴はあくまでも観測者であり、コッチの世界には干渉しない。
「んー。効かないよぉ。何たって私は部外者だからね!」




