放浪
可愛らしい女の子だ。可愛らしい真っ黒な着物。女の子らしいおめかしをしている。髪飾りをジャラジャラとつけている。肌に真っ白の粉のような物をつけて、口紅を塗っている。本性というか本来というか。本来的に滋賀栄助が成りたかった姿だろう。
「噂されてこそ意味がある。それが妖怪であり、幽霊であり、悪霊あったはずだ。それを自分から布教活動をするなんて……最低最悪だな」
「お褒めに預かりご光栄の至りですわ」
気色の悪い声。女の子らしくって可愛らしくって愛おしくって気持ち悪い。長い頭髪を高い位置でまとめ、両肩に掛かる長さまで垂らした髪型をしている。随分と短いスカート。胸元の開いて、臍が見える服装だ。クルクル回転して見せて笑顔を振りまく。
「うふふふふ」
「おい。無視するなよ。コッチを向けや、この野郎!」
柵野栄助が憤りを見せる。見た目が完全な悪霊である柵野栄助と見た目がお茶目で天然な女の子の姿をしている滋賀栄助。互いが悪霊であり……世界を滅ぼすポテンシャルを持った悪鬼。
「説明しよう! 私は悪霊として江戸時代から生きていた。死んだまま霊体として存在していた。陰陽師に見つからないように、ゆっくりと人間を殺しながら生きていました。富士の樹海には死ぬ寸前の人間が一杯いるからねぇ。悪霊としては困らないわけですわ。まあ、自殺スポットに一役買ったわけですな」
「普通に話せや」
「でもでも、遂に私が凱旋する機会が現れます。私の前にとある死骸が現れた。鮎川小次郎という売れない小説家。死ぬ寸前に私は奴に憑依した。殺してはいない。奴へ寄生しながら世界を放浪した。奴の物語を狂わせながら……」
出会った瞬間からこの骸骨は傍にいた。初めからコイツが主導権を握っていたのか。
「操り人形の前に……お前が現れた。噂になっているだけの……幽霊でも悪霊でもない。まるで妖怪の卵。とある狂った医者の妄想でしか無かった……お前に。最初は凄くも何とも無かった。吐いて捨てるようなただの怪談話。ただの噂話だ」
まあその通りなのであるが……。悪霊は人間を殺して成長する。滋賀栄助……その霊は悪霊としての個別能力を発揮した。滋賀栄助は……『監視』を司る悪霊である。壁に耳あり障子に目あり。全てを見通す能力だ。誰であろうと、何処にいようと、その姿を監視することが出来る。
「第四の壁の突破。空間的概念の超越。それが私の能力だ。いわば四次元を除く能力。空間的概念を超えた存在。その場にいない存在。テレビを視聴者が見るように。ラジオをリスナーが聞くように。配信者にコメントを送るように。私はその場にいなくとも……全てを監視する。悪霊としての能力『千前途遼遠千里眼』」




