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輸入

 周防にそんな怪談話などない。そもそも滋賀栄助が無くなった場所は富士の樹海だ。設定があんまりにも合っていない。何も辻褄が合っていない。納得など出来るものか。


 「どこから、その後付け設定を持ってきたんですか?」


 「それは……後付け設定ではない。真実なんだ……」


 武雷電の仮面の中から声が聞こえる。まるで怯えるかのような声。鍬形虫のような角が輝きを失っていた。武術を持ち、腕力があり、体力が有り余って、けたたましい覇気を持つ。そんな直接戦闘最強の百鬼である武雷電が……何かに怯えて震えている。


 「じゃあ誰から教えて貰ったんです?」


 「……言えない」


 「言えない? まるで悪霊のようですね」


 悪霊は妖怪と違う。妖怪は子供に噂をされることを好むが、悪霊は噂をした人間を殺害しに行く。道連れにする対象にしてしまう。言葉にするだけでも恐ろしいとは、そういう意味だ。これを聞いて人狼……殲滅者厳雷狼はほくそ笑む。


 謎は全て解けた? 過去が全て明らかになった? 笑わせるな、という話だ。


 この世界の一年間のループ。未来の機械が輸入されている理由。そして、百鬼を殺す二本の刀。この辺は何も解決していない。妖力をエネルギーとして平行世界まで移動した。この世界は柵野栄助によって滅ぼされるだろう。では、この世界は一体……。


 きっと、まだ誰も気が付いていない……後ろで糸を引いている黒幕がいる。


 「残る百鬼総出で柵野栄助を仕留める。異論はないな」


 武雷電が怯えた声で言った。まるで内に秘めた恐怖を覆い隠すような大声。統率者としての威厳のある出陣の号令ではない。ただの内なる恐怖を打ち消す為の叫び声である。端的に言えば惨めな声だった。


 武雷電の変化は黄泉獄龍の死骸を吸い込んだことにある。元の世界に帰るにも、柵野栄助を打倒するにも妖力がいる。だから目の前に落ちている妖力の塊を食べるのは、まあ合理的な判断なのだが。きっと、喰らったのは妖力だけじゃないのだ。


 「うぅ、う、う」


 心境に変化があった。気持ちが現れた。黄泉獄龍の味わってきた絶望が……身体の中に充満した。鮎川小次郎の抱えていた闇が身体の中に入って来る。滋賀栄助に対する歪んだ愛情。自分の作品への曲った愛情。この世界の説明のつかない神話などへの沈んだ愛情。その全てが……妖力の中に練り込まれている。


 奴は自分の描いた物語を100も現実化させた。それだけの妄想力を持った生き物である。それは死骸になったとて危険度は変わらない。もうそこには……桑原紫陽花はいなかった。何歳になっても英雄を夢見る……正義の味方を志す……全身蒼色の鎧武者は消え去った。そこにいるのは……ただの怪物である。


 獄面鎧王は溜息をつきながら呟いた。


 「なるほど。これが黙示録なのですか」


 奴の後ろには……黙示録の騎士がいる。死神を連れた人馬だ。

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