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俯瞰

 ★


 残る百鬼は6匹。その中の二匹は百鬼将。もう戦いは終わりに近づいている。これらの百鬼は今まで宇宙空間で世界の移り変わり用を俯瞰して見ていた。時間はかかったが、この世界の一年間がループしていることを知った。


 自分たちが無意味に殺し合いをさせられた。無意味な争いをした挙句……勝手に最強の悪霊が生誕した。もう自分たちの意味は皆無である。薬袋的なんて実在しない人物を目の当たりにして、こんな江戸時代ぁら全く進歩していない世界に飛ばされて、何を得る訳でもなくなった。


 「桑原紫陽花。いや、武雷電。貴方に問いたい。これからどうすべきか」


 「今までと何も変わらない。柵野栄助を殺す。そして、奴の悪霊としての殻を奪いこの世を超越する。その後、妖力を貯めて元の時代に戻る。何か間違っていることを言っているか?」


 「いいえ。成功難易度が異次元なことを除けば……たぶん理屈は合っているんでしょうね」


 「元の世界に帰り、俺は英雄となる。勇者となる。伝説となる。あの世界を未来永劫守り続ける存在。全ての悪を悉く粉砕する正義の化身。この世界を救済した救世主となるのだ」


 「なるほど。そうですか」


 獄面鎧王と武雷電は互いに睨み合う形になっている。二人の真下には『黄泉獄龍』の死骸があった。その場は周防。以前に薬袋病院が存在した場所である。おそらく元の人格は小説家・鮎川小次郎である。そして、首が転がり、真っ白になって死んでいた。前の世界の死を引き継いでいる。此方の世界でも死んでいる。


 「コイツは俺たちを怪物に変えた張本人だ」


 「えぇ。貴方の願いやあの政治家さんの願望。薬袋纐纈さんの悲願は叶わなかった。薬袋的の妖力は……この世界への転移と自分の小説の具現化という彼の要望の再現に使われてしまった。前の世界の勝者は彼だった訳ですね。薬袋的も彼に妖力を託した」


 「どうだろうな。俺は薬袋纐纈は初めから鮎川小次郎を優遇していたと思うがな」


 薬袋纐纈は……鮎川小次郎に全てを委ねていた。そうも考えられる。


 「ですが……勝てるでしょうか」


 「勝つ以外に選択肢などない。何としても薬袋的を殺すのだ」


 殲滅者厳雷狼は下種な笑みで笑う。プロトゴーレムジャリーマは精根尽きた顔で項垂れている。雷皇ザインプレスタントは無表情のまま二人を眺めている。降魔忍者是音は顔がマスクで隠れており、表情が読み取れない。


 「貴方は……どうやって滋賀栄助を知ったんです? 貴方がその噂というかレッテルを広めたんですよね」


 設定を上塗りした。本来備わっていない情報を後付けした。


 「どういう意味だ?」


 「滋賀栄助なんて悪霊は、江戸時代の有名な悪霊でも何でもないと言いたいんです。江戸時代の有名な怪談なら山ほどあります。日本三大怪談である『四谷怪談』『番長皿屋敷』『牡丹灯篭』。この三つに出て来る悪霊とも違う名前だ。この周防にそんな伝承があるなんて聞いたことが無い。何なんです? 滋賀栄助って」

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