上塗
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Don't forget me If you forget, you will never be able to stand up. Do you understand this feeling? I'm fighting. Don't give up on this unbeatable battle. The soul is disappearing. The body has already been lost. Still, I am eager to realize your ideal world.
今まで見えて二人が見えていた。薬袋的の記憶を持つ滋賀栄助と、滋賀栄助の記憶を持つ薬袋的。互いに同じ境遇で、同じ存在で、別の性質を持っていた。一方は電撃を放つ能力、もう片方は爆風を巻く能力。この二人の違いとは……。時を超えた二人の人物ではない。
滋賀栄助の再臨の為に媒介にした刀が……闇荒御魂と天和御魂。その二つが既に交わった。
「本当は薬袋的なんて人物はいない。あの爺さんの妄想だったんだ。それに……全員が侵食されていった。幻想に……喰われた。しかし、その幻想を覆いかぶせた人物がいた。鮎川小次郎、またの名を黄泉獄龍。空想を空想で上塗りした」
そこには……誰もいなかった。女性のくせに侍のフリをして陰陽師に助演する戦闘狂も、百鬼の一匹で実家を大爆破した名も無き戦乙女もいない。薬袋的という偶像と、滋賀栄助という死体。それが混ざり合った獄炎。そこには……本物の悪霊がいた。間違った伝承によって生まれた怪物。数千単位の悪霊の怨念を一手に引き受けた偶像。あまりに残酷な運命。
「あなたは……」
「私は柵野栄助」
返事をしてくれた。人間の姿に戻る。二人が溶け合ったという表現も違う気がする。まるで初めから同一人物で繋がっていて同じ存在だったような。融合でも同調でもない。まるで魂と魂を塗り潰し合って、その粒子が一個の物体に固まったような……。いや、この表現も違う気がする。
「こんな私でも愛してくれる?」
そこには……可愛い女の子の姿があった。髪にはザクロの飾りを付けている。優しそうな大人びた女性。真っ白な肌、ただ色素を感じない訳ではない。健康的な日に当たっていない肌。白いワンピースがその純潔さを際立たせる。透き通るような真っ黒な髪は地面に到着しそうで。膨らんだ胸に手を当てて心臓の鼓動を感じている。
「津守都丸さん。いや、まだ絵之木実松さんって呼んでもいいかな」
「はぁ」
「姿形は変わったけどさ。それでも……同じだよね。いや、あんまり私って変わっていないのかな。どうかな」
「どうかなと言われましても」




