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培養

 この頭のオカシイ連中が考えていることなど分からないが、キーワードは浮かんでいる。おそらくは私を殺して悪霊にしたいのだろう。そして自分を呪わせて何かしらのエネルギーを抽出する。願いを叶える為の培養器にする算段だ。


 俳優は私を車に乗せて走り出した。あの政治家といい、どうして即座に殺さないのか。どうして誘拐なんて面倒な真似をする。どうして生かすのだ。


 「殺したいなら殺せよ」


 高級車の車体の後ろに寝そべって倒れ込む。もう上体を起す気力も残っていない。車の中にはロボットアニメのオープニング曲が鳴り響く。


 「そう死に急ぐな」


 「殺されるという不安を味わったことがあるのか。凄く苦しいんだぞ」


 「ふっ、それが狙いよ」


 ……ん? そうか。そういうことか。


 「なるほど。私を悪霊にしたい訳だから、私をトコトン絶望させたいというわけか」


 「一瞬で死んでもらったら困る。あわよくば私に深々と恨みを降り積もらせて死んでほしい。お前は私を恨んで死ぬんだ」


 そんな気持ちは抱かなかった。誰に対しても恨みを持ったことなどない。よく言えば眼中にない。悪く言えば失ったら憤りを覚えるほどの大切にしているものがないのだ。薬袋的みないいくわには失って困ることはない。家族はいない。もう全員死んだ。人脈もない。学校に行っていないからな。私物を愛する気持ちなど持ち合わせていない。


 「あぁ、そういうこと」


 「そういう意味ではお前は厄介だ。人間として感情が衰弱しているからな。誰かを恨む気持ちが欠落している」


 「心が壊されているからな。あの爺とかお前達のせいで」


 自分を可哀想と思う気持ちが低い。自分を慈しんでいない。自分を愛していない。自分に自信がない。自分自身がない。自分なんてどうでもいいと思っている。全身は傷だらけで激痛で泣き出したい。それなのに心が痛がっていないので、涙が出ない。


 心が壊れている。


 「これからお前を拷問する。少しずつでもいい。私に恨みを持つように、憎むように、少しずつ心に反逆心を芽生えさせる」


 「…………助けてくれよ……」


 「それは私の台詞だ。私を救っておくれ。私の夢を叶えておくれ」


 「こんなやり方を断行する奴の夢が叶う訳がないだろうが。お前の好きな妄想の世界では、こんなことをする人間の夢が叶う瞬間が訪れるはずがないだろうが」


 この言葉を最後に会話は無くなった。何を言っても反応しない。どんな嫌味を言っても返答しない。もうコッチから話しかけるのも止めた。外が雪景色になる。車の中は暖房が作動していることに気がついた。どうやら山に登っているらしい。

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