電撃
電撃使いの対処法など相場が決まっている。絶縁体、避雷針。地面に通電させてしまえば簡単に息の根が止まる。問題はそんな都合の良い代物は江戸時代にはない。電気を対処し得る技術などこの世界にはない。ほぼ無敵に等しい。
それでも果敢に攻撃をせずに様子を伺っているのは、滋賀栄助への警戒なのだろう。二本の刀を大きく構えて深呼吸をする。傍目からは随分と落ち着いている。項垂れている津守都丸とは大違いだ。
生易死難が使いにくい。滋賀家の剣術は後方に下がりながら剣を振るう。しかし、この場は三匹の百鬼に囲まれているので、逃げることが難しい。この百鬼たちは前回の機会仕掛けの虎との戦いを見物している。その戦いを見て編み出した戦術だ。一対一で戦わない。逃げる前に……囲む。
「さて、どうしたものかな」
と、目を離した瞬間に、今度は人狼が動き出した。その巨体で咄嗟に森林へ逃げ出したのだ。薬袋的との直接対決は分が悪い。これ以上、津守都丸の命を狙うことに意味を感じない。殺す価値はない。それっぽい男は殺したので、もういいだろうと判断したのだ。
「おい、狼野郎。逃げるのか!」
人狼の背中を追いかける薬袋的。しかし、奴の動きは俊敏だった。森林に入ると霧のように姿を消した。人狼伝説でも狼は森林に隠れる者。姿を晦ますことに関してはお手の物なのだろう。これで残るは……百鬼が三匹。余裕綽々影鼬。神出鬼没錐土竜。霹靂一声業雷虎。
「もう、そんなに頑張らなくてもいいですよ」
水上几帳は優しい声で近くにいる滋賀栄助に呼びかける。土御門芥も不思議そうな顔をしている。苛立ちを隠しきれない。どうしてこれ以上誰も死んで欲しくないという、気持ちが分からないのか。その間にも容赦なく電撃が攻撃の機会を伺ってくる。天和御魂で電撃を弾く。
「御雷。聖なる電撃ですか」
刀から放たれる電撃は三匹の攻撃を抹消した。込められている妖力の量が違う。滋賀栄助が放つ電撃は武御雷神と呼ばれる日本神話の雷神。その神の放つ電撃と同等なのだから。周囲から妖力を吸収する。何ならこの三匹の電撃をも空気中から吸収している。
「明らかに妖力の波動が違う……」
「くっ……」
以前からも振るっていた刀剣。その刀が戦う度に研ぎ澄まされていく。本来ならば直刀は二刀流で戦う物ではない。両手に握っていれば強いって単純な話ではない。しかし、この二本の刀剣は……二本揃って意味を発揮する。何度も激戦を繰り返し、その度に妖力を吸収してきた成果。天和御魂と闇荒御魂を合わせて……光之幸魂。神々しい波動が広がる。




