空電
百鬼の目的は名家の陰陽師を殺すことである。そして、生存者は津守都丸、水上几帳、土御門芥の三人。奴らは伝言が終われば薬袋的と滋賀栄助には興味がない。緑色をした電撃が迸る。土竜の姿が気が付いたら消えていた。また、鼬が天空を割拠する。身体を巨大化させ、全身から電撃を巻き散らす。そして、虎が……力強く吠えた。
すぐに狙いが分かった。水上几帳と土御門芥の首だ。奴らの狙いは、この世界の陰陽師の殲滅である。いかほどの価値を生む行動なのか分からない。奴らのレベル3の悪霊になるという目標は潰えているはずだ。もう百鬼が戦う理由も浅いと思う。この化け物はこの期に及んで何をする気なのか。
殺される。そう思った瞬間に、その攻撃を滋賀栄助が弾いた。これ以上誰も死んで欲しくない気持ちは、滋賀栄助には伝染したらしい。天和御魂と闇荒御魂を構えて、上空からの突進と地中からの攻撃を受け止める。白い稲妻と黒い稲妻が空気中に轟く。
「おい。何をやっているんだ! 殺されるぞ!」
猪飼慈雲と鬼一法眼は殺された。死体の関連性から次は自分たちが狙われることを知っているはずだ。抵抗しても勝てる相手ではない。逃げるしかないはずなのだが。
「ああ。お構いなく。我々は生きることに執着していないので。あっ、そうだ。言い忘れていた。薬袋さん、聞いてください。先ほどの命乞いを受け入れてくれたお礼です。是非、周防に向かってください。そこに黄泉獄龍は存在します」
その言葉を聞いて、薬袋的と同じように滋賀栄助も驚く。小説家……鮎川小次郎は存在する。そこは……昭和の時代に薬袋病院のある場所と同じなのだから。
「始まりの地ってことかよ」
人狼は気色の悪い笑みを浮かべながら立ち上がる。薬袋的の攻撃を受けつつも即死していない。唇がへの字に曲がる程に折れ曲がる。目が大きく見開いて、舌なめずりをする。興奮しているのか呼吸が荒い。まさに得体の知れない化け物。
「へぇ。助けるんだ」
万雷が鳴り響く。霹靂一声業雷虎が薙刀を持って突進する。電気の塊では斬撃が通用しない。狙いは門の傍にいる二人である。まずは電撃の猛獣三匹はこの二人に狙いを絞った。滋賀栄助よりも薬袋的の方が危険だと判断しているからの動きである。
緑色の空電が周囲を電線のように三人を囲む。滋賀栄助が刀を振り回すも切先が当たらない。電気の移動速度は30万km。 1秒で地球を7まわり半もする速さ。人間が目で追えるスピードではなく、腕を振り回して当たる速度じゃない。
ここにきて、強力な百鬼が姿を現した。




