不運
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絵之木実松の幼少期。江戸はただの草木が生い茂るだけの地帯であった。しかし、この地にも人は住んでいる。一時の伝承があったように。悪縁を絶つ縁切りの力。縁を切るパワースポットは各地に存在する。京都に存在する安井金比羅宮や貴船神社が有名だろう。そして、東京都にある『縁切榎』が代表的だ。
善縁を結び悪縁を絶つ。飾られている絵馬にハッキリ明記されている。榎実松はその力を受け継ぐ者だった。だから津守都丸に渦巻く悪縁を即座に見抜いていた。このまま陰陽師を続ければ早死にする。おそらく戦うことに縁がない。潜入捜査や隠密行動までも不得手ではないが、戦闘にはまるで向かない。これは才能があるとか、ないとか、そういう問題ではない。ただ、『縁遠い』のだ。
時折見せる津守都丸の激昂。まさにそれが冷静さを求められる陰陽師に向いていない証拠。
だから入れ替わった。互いの立場を入れ替えた。容姿は……違いはない。榎実松という人間は存在しない。いわば御神木の霊。絵之木実松なんて、そんな都合の良い人間は存在しない。幼少期の津守都丸の前に現れたのは……ただの掃除をしている特殊な御霊であった。この地の住まう神様。あとの設定は……入れ替わった後の記憶改変である。津守都丸は幼少期の入れ替わった記憶を曖昧にも覚えていない。
ただ……その地に住まう神様は一人の子供を守りたかった。
永遠に体を入れ替えている手筈では無かった。津守家の人間は将軍家に入れば一般的な悪霊と戦う仕事をしない。将軍のお膝元で陰陽師に資金が流れるように洗脳する仕事だ。だから成人して将軍の部下になるまで入れ替わろうと計画していた。仕事が定着すれば、絵之木実松と津守都丸は、また入れ替わる。そう計画していた。『いつまでも津守都丸でいて欲しいんだよ』。あの言葉に一切の嘘はない。
しかし、アクシデントが発生した。一年間のループ。何度も発生する同じ時間を絵之木実松は感じ取っていた。元に戻るべきか、入れ替わるべきか……元の関係に戻ることは正しい判断なのか。『縁切り』は成功しているのか。いや……まだ津守都丸の『戦わない方がいい』呪いは解けていない。そう考えるのが妥当としか考えられない。
戻りたくても……戻れなかった。
陰陽師であることに縁を切って欲しかった。どんなに痛みを伴っても、陰陽師でいて欲しくなかった。津守都丸は死んでしまう。縁を断ち切らなければ、不運にも死んでしまう。それだけは……やめて欲しかった。彼には死んでほしくなかった。
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【進化論】この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ。実はこの文言、ダーウィンの伝えたかった進化論を全て言い表せていない。




