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銅鉢

室町時代に作成された『百鬼夜行絵巻ひゃっきやぎょうえまき』では、実に多くの付喪神が描かれている。仏教の儀式で使用される打楽器である銅鉢どうばちの妖怪。鍋や釜を頭にそせた妖怪や、やかんや鍋を上部に設置して加熱用容器を支持するために用いられる器具の妖怪、五徳妖怪。矢を入れて背負うための武具が妖怪となった古空穂うつぼなどの様々な妖怪の存在が確認された。


 付喪神は過去にも存在したのだ。人間の使用する物に魂が入り、それが妖怪と化した。そんな妖怪が。


 「今回の相手もその付喪神だって」


 「えぇ、厳密には相手は家そのものではないでしょうか」


 だが、それでは説明がつかない。あの時の鐘で刀を奪われた時は、こんな古びた家ではなかった。時の鐘は近頃になって創られたものである。その他にも似たような武器が地面に吸い込まれる事件が各地で発生しているらしいが、場所には規則性はなく、奪われる品も様々だ。だからある程度の広範囲に能力を譲渡できると考えれば、少し無理やりだが納得できなくもない。


 「この家が妖怪で、武器を引きつけているのかも」


 「いや、土地そのものが妖怪かも」


 滋賀栄助はいつもは眠そうな顔をしているくせに、珍しく真剣な眼差しで訴えた。


 「『誘い水』って妖怪いただろ。さっきの分類で言うと、人型になるのかな。鬼の妖怪だよ。湖に人間を引き寄せて、誘き寄せられた餌を舌で食い荒らす、土地そのものが鬼の顔であった妖怪だ」


 湖が人間でいう口にあたるのである。その水を飲みに来た人間を食い殺すのだ。勿論、陰陽師である以上はその鬼に関しては知っている。


 「武器を集めることで、それを回収する為に来る人間。武器を大量に手に入れる為に欲に駆られた人間。それらの人間の気持ちを利用して、一箇所に集めて一網打尽にする捕食者」


 だが、土地そのものが悪鬼だとすると、佰物語という作品の及ぼす影響力があまりにも莫大に感じる。本に書かれている事が実体化する事の恐ろしさ。この江戸という少し前までは人が寄り付かなかった未開の地をも妖怪に変えてしまったのか。


 「本当に何者なんですか。その佰物語をつくった人間は」


 「こっちが知りたいよ。って、こんなに大声で口論しているのに、やっぱり家に入り込まない限りは何も起きないな。ここまで今気強く襲いかかってこない悪鬼も珍しいな」

 

 「この前の血染蜘蛛もそうでしたけど、特定の条件を満たさないと現れない。それが本の中での設定で生きている佰物語の弱点かもしれませんね」


 ★

 

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