轟音
「津守都丸。陰陽師の名のあるお家の一つ。諜報活動に富んだ隠密潜入捜査官って所ですかね」
現れたのは水上几帳と土御門芥であった。城の門から現れた。水上几帳はいつもの笑顔でゆっくりと歩いてくる。左手には百鬼閻魔帳こと百物語が握られていた。土御門芥は眠そうに欠伸をしている。
「本当の彼の名前は絵之木実松なんですけどね。幼少期にそこの彼と入れ替わっていますから」
「俺は今まで絵之木実松として生きて来た。でも、本当は私が津守都丸だった」
「そうですよ? 今さら何の確認ですか?」
いけ好かない笑顔は同じなのだが、何やら彼が持っている温かみが失せている気がする。本性を明らかにしたような道化師のような笑み。
「で? 何でお前たち二人も悪霊の方に立っているんだ? まさか悪霊の味方でもするつもりか?」
「ええ。僕たちは彼女にこの世界を破壊して貰うことにしました」
背筋が凍った。絵之木実松も津守都丸も絶句した顔を浮かべる。本当にこの世界を滅ぼすつもりなのだ。天守閣に坐する位置から轟音が鳴り響く。最後の怪鳥がそこにいた。明らかに空中から妖力を吸い上げている。
「どうして……世界を守るのが陰陽師では!?」
「この世界は守る価値などありません。こんな未来が潰えた世界は。僕が貴方たち二人に援助していたのは……貴方が世界のループを壊してくれるかもしれないと思ったからです」
初めてかもしれない。ここまで力強く魂を込めて彼が発言するのは。
「一年間がループする300年近く同じ時間を繰り返す。これがどれ程の苦痛か。全く進化を遂げない世界がどんなに無価値か。想像絶する悪夢です。このループから脱するには……もうこの地球を粉々にしてしまう他ないんです」
先ほども聞いた気がする。同じ時間を何度も繰り返す現象。どうしてそんな呪いのような現象が。
歯がゆい顔をする津守都丸と滋賀栄助。話の腰を折るなよと不満そうな顔をする薬袋的(名も無き戦乙女)。ひたすら困惑した表情をうかべる絵之木実松。もうこの上なく嬉しそうな水上几帳。呆けている土御門芥。六人がここに揃った。
「わざわざ破壊しなくても……何か方法が……」
「方法ってなんです?」
いや、そもそも同じ1年間を繰り返すことが納得できない。そんなことが実際に有り得るのだろうか。だとしたら……この世界は……。
「進化する可能性を失った……いわば時間と空間の失敗作。動かなくなった世界です。我々はこれを終点箱庭と呼んでいます」
進化……どこかで聞いた言葉だ。確か……薬袋纐纈が愛した言葉……。




