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忠臣

 殲滅者厳雷狼。鮎川小次郎が人狼伝説に感銘を受けて書いた小説である。人間の中に紛れて人を喰らい続ける怪物。その特性がこの時代にもしっかり繁栄している。


 「この状況。確かに百鬼にはもう詰んでいる状況だ。まさに我々は裁きを受けている状況だ。……と思うのが普通。でもでも、まだ逆転する考察箇所はあるんだよねぇ」


 まず、何でこの1750年の一年間が繰り返しているのだろうか。もし、この無限ループが偶然ではなく、この一年間を意図的に選ばれていたとしたら。意味があるのだとしたら。


 「何かの事件を……回避していると考えるのが定石。う~む。俺はあんまり歴史には詳しくないぞう」


 誰かがまだ糸を引いている。それは薬袋的でも滋賀栄助でも百鬼将でもない。人狼は気色悪く笑った。この後ろで糸を引いている人間を見つけ出す。その為に必要な行動は……。


 「行動を大きくしていくこと。裏で糸を引いているなら、人形を思いっきりコッチに引き寄せて、捕まえてやる」


 その為にも何となく残っている陰陽師を皆殺しにする。全員皆殺しにすれば……奴も顔を出すかもしれない。


 「俺はまだまだ諦めてないぜぇ」


 ★


 滋賀栄助と絵之木実松は大阪城に到着した。そしてその城に入る前の門に二人は待ち構えていた。のは……薬袋的と津守都丸である。


 「名も無き戦乙女。百鬼の一体……まるで薬袋的の容姿だな。あの男の言う通りだ」


 「そっちは薬袋的か。心が薬袋的で、身体が滋賀栄助って感じ?」


 「じゃあお前は、心が滋賀栄助で、身体が薬袋的って言うのか」


 「まあ俺もお前も互いの記憶を持っているから、単純に入れ替わっているって程じゃないと思うけどな」


 睨み合う……同一人物同士。入れ替わった二人が顔を合わせた。


 そしてコッチも。絵之木実松と津守都丸。幼少期に津守都丸が自分の役目を放棄した。陰陽師としての自分の縁を切った。絵之木実松は津守都丸として行動することになり、将軍の重臣として陰陽師の経営の為に暗躍する羽目になった。津守都丸は絵之木実松として、ただの雑用の陰陽師として生き延びて滋賀栄助と結婚した。


 この二人に関しても運命の出会いだった。


 「よく俺の前に姿を現したな。どの面を下げて現れた……」


 「俺さっきまで気絶してた。で、全部思い出したよ。俺の名前は津守都丸だ。そして、お前が絵之木実松だよ。ようやくそれを思い出した」


 「立派に演じたよ? 将軍様の忠臣として一生懸命に働いた。君の上司を演じきった」


 時代を超えて入れ替わった女と役目を超えて入れ替わった男。二組が……揃った。

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